しかし、『経済はいつでも回復できる』というのは楽観的な展望かもしれない。

 アメリカでは3月中旬から3週間で、空前の失業保険の申請者数を記録した。全米の大都市でウイルス感染が急激に拡大した3月中旬には約331万人が、次の週にはその2倍以上の687万人が、4月の1週目には661万人がそれぞれ失業保険を申請し、3週間におよそ1600万人超が職を失ったことになる。過去における週間最多数が1982年の69万5000人であったことを考えると、驚異的な数字である。

 NY在住の小倉梨絵さん(35)も失業保険を申請した一人だ。2012年から現地でフリーのヘアメイクアップアーティストとして活動する彼女は、主にモデルや俳優の写真撮影、結婚式などを支えてきた。しかし、外出制限令以来、自宅待機を余儀なくされている。近距離で接する仕事でもあり、6月まで予定していた仕事10件はキャンセル。その後の仕事もめどがたたず収入はゼロとなり、蓄えてきた貯金を取り崩しての生活だ。

 彼女は4月1日にニューヨーク州の失業保険を申請した。オンラインでの申請は1回ではつながらず数時間を費やしたという。それでも「自分は運がいい方」。友人たちは何十回と試したが全く申請できないと聞いた。

 地元メディアによると、NY州労働局は失業保険申請の急増でパンク状態だという。失業保険に関する問い合わせは通常だと1週間で5万件ほどだが、3月23~28日の1週間だけで820万件。同局のウェブサイトにもアクセスが殺到し、何度もサーバーがクラッシュする事態になっている。労働局は急きょ700人を追加し、1000人規模のスタッフで対応にあたっている。

 小倉さんは、実際にいつから失業手当が手に入るのかわからないという。「いつまた、もとの仕事ができるのだろうか」と心配な日々だ。

 NYには、小倉さんやナタポンさんのようにフリーランス業やバイトで生計を立てている人が150万人近いとされ、「外出制限令」で最も影響を受けている。会社勤めの「ホワイトカラー」と呼ばれる人々も楽観できない状況だ。

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世界恐慌以来の不況の可能性