「あれから25年が経っても、お二人の芝居に、これっぽっちも追いつけている気がしないんです。ただ、いまだに追い続けられる背中があるのは、役者としては大きな幸せだと思っています」

 幼い頃の将来の夢はパイロット。「大体、そういう子供らしいものを夢想していたので、まさか自分が役者になるとは、毛ほども思っていなかったんです。あの頃の自分が、今の自分を知ったら、すごく意外なんじゃないかな」と笑う。

「ただ、性分としては、役者の仕事は合っていたのかもしれないと思います」

 そう言って、自分の性分がどう役者に向いているかについて、時々熟考を交えながら、静かに分析した。

「お芝居というやつは、どうにも数値化ができないんです。でも、だからこそ面白いんじゃないかと思います。一つ作品を経て、何かを掴んだとか、それまで気づかなかったことに気づけた、というようなことは、きっとあると思うんですが、それらはとにかく言語化しにくい。でも、成長や成果が曖昧模糊としたものだからこそ、僕の場合は、変わることなくお芝居に向き合っていられるんです」

 では、上川さんにとっての芝居との向き合い方とは何なのか。

「“芝居が好き”というその一点に尽きます。もしこれが、いちいち正解があるものだったり、正確な数値が目の前に提示されていくものだったりすると、一喜一憂がそこに伴ってしまいかねない。でも、そうした反省とか後悔に駆られることなく、『楽しかった』とか『今日はちょっとうまくいかなかったな』という程度の揺らぎ具合で、お芝居に対するモチベーションは、特に変わることなく保っていられていることが、僕がお芝居を30年続けてこられた、大きな理由のような気がするんです」

 少し意地悪な質問かもしれないと思いつつ、「とはいえ、“好きになれない役”というのもたまにはあるのでは?」と質問すると、「幸いにも、そうした不幸な巡り合わせには、苛まれずに済んでいます」と言った。

次のページ