「私は、先生もご存知のように、とても好奇心が強い人間なので、初めて行くホスピスが楽しみでワクワクしています」

 彼女の死を真正面に見据えながらも落ち着いた心境がうかがえる手紙で、その覚悟に感嘆しました。最後にはこうありました。

「私がいま60代ぐらいまで生きたのであれば、きっとじたばたしないで死ねるのでしょうが、40代では少し早いですよね。でも仕方ありません。先生! 宇宙のどこかできっとお会いしましょう。その日を楽しみにしています」

 彼女はホスピスに移って間もなく亡くなりましたが、その報に接し思わず「BON VOYAGE(よい旅を)!」と心から祈りました。

 彼女は40代にして、なぜそこまで死を覚悟できたのでしょうか。私は彼女が死後の世界に対して、持ち前の好奇心を持って臨もうとしたからだと思います。

 作家の遠藤周作さんは、

「70代の前半ともなると、もう一つの大きな世界からの囁きが聞こえてくる」とおっしゃっていました。彼女は40代にしてその囁きが聞こえたのでしょうか。

 私は自分にとって、自分の死は存在しないと思っています。死んでしまった自分はそれを知ることができないのですから。死に意味があるとしたら、死後の世界がある場合だけです。ですから、死後の世界はあると考えるようにしています。それが死を覚悟するためのコツでもあります。

週刊朝日  2020年4月10日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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