長嶋さんと一緒に狂言を観た時の話などは実に楽しいというか、面白かったです。そして「野球というスポーツは芸術である」と王さんと長嶋さんを描いた僕のポスターにサインをしてもらいました。

 画家と話をするよりアスリートと話をする方が、うんと刺激になります。瀬古利彦さんも面白い方です。僕はマラソン選手になりたかったぐらいです(ウソですが)。西脇工業高校は、全国高校駅伝で8度も優勝しています。そんなわけでマラソンが大好きで、マラソンの夢はよく見ます。夢ではトップグループで走っています。いつかトップを走り優勝間違いないと思った時、ゴールがビルの中で、何階で降りればいいのかを聞き忘れて優勝できませんでした。

 ところでオリンピックは予定通り開催されるんですかね。2年前だったか、中国の仙人みたいな老人とコンタクトをしている日本の霊能者がその老人に「オリンピックは?」と聞いたら「無し!」と言ったそうです。延期とか中止になると先(ま)ず経済が打撃を受けますよね。と同時にやっぱり怖いのはウイルスですね。セトウチさんは大丈夫です。動かないんですから。僕も動かないで絵を描きます。

 でも定期健診でどこも悪くないと医者に言われたんでしょ。医者の言う通りです。では。

■瀬戸内寂聴「うなりつつコロナウイルス研究中 ヨコオさんのため」

 ヨコオさん

 お元気ですか? 風邪などで寝ついていませんか?

 私は、この手紙を書くため、三時間前から原稿用紙を前にうなっています。なぜなら、今、流行のコロナウイルスについて、病気に格別好かれるヨコオさんのために、もっと知識を得て、ヨコオさんを病気から守りたいというけなげな精神から、目下日本に流行中のコロナウイルスに、深い知識を得なければと、研究中だからです。

「スペインかぜ」ということばが、いつ耳に入ったのか覚えがありませんが、子供の頃から識(し)っていました。ちょうど「かぜ」をひいても、「スペインかぜ」になるぞと、大人から脅かされていたからでしょう。万病の素といわれる「かぜ」の恐ろしさを実際に識ったのは、結婚して北京で暮らした時、夫の中国人の友人で学者の柯さんの奥さんが、日本人で、二人の年頃の娘さんの母になっていました。

次のページ