地元では有名な割烹料理店に月に1回のペースで足を運ぶことになりました。肝臓も痛めているてっちゃんの飲みっぷりは決してよくありませんが、楽しくて仕方がないという風情です。時には共通の友人やわが病院の看護師さんも加わって盛り上がります。積年の無沙汰を解消すべく、「てっちゃん」「良ちゃん」と打ち解けて杯を傾けました。

 しかし、病気の方は確実に少しずつ進行し、酸素ボンベ付きの酒席となりました。

 それでも、てっちゃんの笑顔は相変わらずです。少しの翳(かげ)りも見られませんでした。

 てっちゃんの自分の病気との向き合い方には感心しました。私はがんと闘う患者さんを戦友だと思っています。まして竹馬の友が戦友になったのですから、ことさらの思いでした。

 酸素ボンベが必要になってから1年ほどたった年の暮れに、呼吸苦が高じて、てっちゃんは緊急入院しました。

 しかし、彼の気概は少しも衰えていません。病室のベッドに落ち着くや否や、私に向かって言うのです。

「良ちゃん! 悪いけど、俺、先に行くからな。いずれまた、向こうで会おう」

 それから数日して、てっちゃんは旅立ちました。わが竹馬の友、てっちゃんの逝き方は見事でした。

週刊朝日  2020年2月7日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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