米国とイランの全面衝突がもし回避されたとしても、昨年10月の消費税の増税で余力を失いつつある日本の家計には、原油高のボディーブローがじわじわと効いてくる。

 第一生命経済研究所の首席エコノミスト・永濱利廣氏は「イランと米国の衝突が戦争にまでは発展しなかったとしても、このまま小競り合いが続けば、原油が高止まりとなり、日本経済への影響は無視できない」と話す。

 もっとも深刻な影響を受けるのは、昨年の消費税増税の影響を強く受けている家計部門だ。ガソリンや軽油、灯油の価格上昇は、2週間程度のタイムラグで効いてくる。業務用のガソリン代や石油化学製品の仕入れ値の上昇で、食料品の価格が上昇する可能性が高い。

 さらに、中東が紛争地域となれば、天然ガスの調達も困難になり、電気代やガス代が上がる。

 永濱氏は「家計にとって、とどめになるのは、来月から始まる春闘の労使交渉で、賃上げが非常に厳しくなることだろう」と話す。

 安倍政権のアベノミクスは、「官製春闘」で、従業員に対する賃上げを実現してきたが、昨年から経団連などを中心に脱「官製春闘」の動きが広まっており、世界経済の減速感がそれに輪をかけている。

 米国とイランの報復合戦を引き金に世界経済危機への懸念が強まれば、賃上げを封印する包囲網が敷かれる可能性もある。

 物価高、賃金安、株安の三重苦がひたひたと迫っている。(本誌・亀井洋志、小島清利、吉崎洋夫)

週刊朝日  2020年1月24日号より抜粋

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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