トランプ大統領 (c)朝日新聞社
トランプ大統領 (c)朝日新聞社
イラン・テヘランでの集会で反米スローガンを叫ぶ市民ら (c)朝日新聞社
イラン・テヘランでの集会で反米スローガンを叫ぶ市民ら (c)朝日新聞社

 イランは米国がソレイマニ司令官を殺害した報復として、イラクの米軍駐留基地などを攻撃した。武力衝突の緊張感が高まるなか、トランプ大統領は軍事的な報復はしないと表明。ひとまず戦争は回避されたが、予断を許さない状況だ。今後、2国の対立は日本経済にどう影響するのか。

 今回の“騒動”が世界の経済に及ぼす影響が懸念されるが、それでも、市場関係者の間では「世界経済危機にまでは発展しない」との楽観論が根強く残っている。なぜか──。

 米国経済がエネルギー危機に対する強い耐性を持ったからだ。米国は2000年代半ばの「シェール革命」以来、国内のシェールガス・シェールオイルの開発を本格化させ、自国で十分な石油を生産できるようになり、輸入に頼る必要がなくなった。

 このため、原油価格の高騰が米国経済に与える影響も、1970年代に起こった2度の「昭和のオイルショック」のときほどの深刻さはない。昨年9月にサウジアラビアの石油施設がドローンで攻撃され、一時的に石油の生産を停止したときも、世界の石油供給に持続的なダメージを与えるほどではなかった。

 ただし、今後、イラン軍が米国の石油パイプラインや、石油メジャーの投資先を攻撃すれば、原油価格はさらに高くなる可能性もある。また、米国と友好関係にある中東産油国にイランが圧力をかければ、紛争当事国以外の石油生産にも支障が及ぶのは必至だ。

 イランの報復が軍事施設への攻撃に限定されているうちはいいが、もし、こうした民間施設が報復合戦の的になるようになれば、世界経済危機へ発展する懸念は一段と高まる。

 ましてや、自国に資源を持たず、中東依存度の高い日本にとってはエネルギー問題は極めて深刻だ。

 もし、両国の衝突で「令和のオイルショック」が現実になれば、石油化学、繊維などの素材や、自動車・航空機などの輸送機器関連企業は大きな影響を受けるのは避けられず、天然ガスの供給懸念も浮上し、電気やガス、食品など生活関連企業の業績も大打撃を受ける。

 すでに、外国為替市場では円高・ドル安が進み、原油と金の価格は急伸するなど、リスク回避の動きが鮮明となっている。米国による反撃など、大規模な軍事衝突を警戒し、投資家がリスク回避の姿勢を急速に強め、安全資産へと資金を動かしているからだ。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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