一方で、私が非常に危機感を抱いているのが、国全体として人を大切にしない政治がずっと続いていることです。それが若者の荒廃につながっている部分があると思います。

桐野:自己肯定感が子ども時代に確立できないということが政治の問題でもある、ということですね。

前川:今の政治は全体として人を大切にしていない。文部科学行政に長年携わってきましたが、人に関わる役所っていうと文部科学省か厚生労働省の二つなんです。だけど、この二つの行政は予算がずっと抑えられている。

 文科省の管轄で言えば、学校はブラック職場と言われる状態ですし、児童相談所も質量ともに不十分。全体的に教育や児童福祉の世界で、国がかけるお金が少ない。今、保育士の処遇の低さがずいぶん問題にされていますけど、一向に改善されないですよね。保育士に限ったことではない、介護に携わる人もそうですし、人を大切にするために、人に接する仕事をしている人がもっと大切にされなきゃいけない。

 それなのに、行政改革は人件費を削ることだ、というような考え方が一般的にさえなり、人はないがしろにされている。そういう政治が、もう30年ぐらい続いてきているんです。

桐野:保育や介護の人件費はずっと抑えられています。政府の発想の中にはどこか性差別的な意識が根底にあるのではないか、と思うんです。今や両親ともに共働きが普通で、昔ながらの性別で役割を分担する家庭が崩壊しているのに、政策は現状に全く追いついていない。なのに昔ながらの家族像が美しい、みたいなことが言われてますから、乖離(かいり)しすぎています。

前川:そのとおりなんです。厳しいお父さんと優しいお母さんがいて、お父さんが経済的な柱になっていて、お母さんは家の中のことをするのが仕事、という厳父慈母なんて言葉がありました。

 今も標準家庭って言葉があるけど、政府が言っている標準家庭って全く標準じゃない。女性が働くのが当然だし、税制にしても家族制度にしても、様々な制度が古いモデルのまま。扶養控除を見直すべきだ、とずいぶん言われていますけど、それも見直されていない。

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