前川:だけど実は、こういう事態は日本だけじゃなくて、世界中で起こっているんじゃないかと思うんです。アメリカなど世界を見渡してみれば、強い力で抑えつけられている人がたくさんいますから。

桐野:最近の造語で、「不本意な禁欲主義者」を指す「インセル」という言葉があります。女性から蔑視されているせいで恋人ができない、と信じている男性を指す言葉で、その人たちがいろんな犯罪を犯しているという話があります。自分が禁欲しているわけじゃなくて、させられている。だからリア充の男女にものすごく嫉妬して、テロに近い犯罪を犯す。

 恋愛によってパートナーを得て、パートナーによって自己承認欲求を満たすような恋愛像が崩れてきていて、恋愛できない若者が増えている。どこにも自分の自己承認欲求を満たすものがない。だから居場所がなくなる。それって結構リアルな実態なんじゃないかと思うのです。関係性から生じる怨恨ではなく、不特定多数への憎悪が犯罪につながっているんじゃないかと、嫌な予感がしています。

前川:子どもたちの実体験が少なくなっている、ということも、30年ぐらい前から指摘されています。ゲームとか今ではスマホの世界に入り込み、子どもたちが人と交流したり自然を体験したりと、かつてふんだんにあったはずの機会を、意図的に作らなければならなくなっています。ネット社会がどんどん進んで、ひきこもりも増えています。

>>【後編/「不登校は学校に責任がある」前川喜平が桐野夏生と考える教育問題】へ続く

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2020年1月17日号より抜粋