桐野:それはあるでしょうね。男親が虐待するのは自己承認欲求じゃないか、という声もあります。会社をはじめ、どこにも認められる場所がなくて、家庭の中で自分が暴力でもって支配するという構図で、自分の承認欲求を満たしていくんじゃないかという。

前川:確かにDVなんかの事件でよく聞かれるのは、家庭の外ではものすごく真面目で穏やかという評価なのに、家庭の中では豹変していたというケースですね。DVや虐待をする人は、自己承認欲求が外で満たされていない、ということじゃないでしょうか。

桐野:社会全体として、承認欲求が満たされる場というのがなくなっているんでしょうね。ネット社会で個人レベルの結びつきもなくなってきているし、そもそも共同体がなくなってきている、ということもあります。

前川:今、国会で答弁している役人を見ていると可哀想になってきます。あからさまなウソをつき続けなければならない状態に置かれていて、痛めつけられた反動で、家の中で威張りたくなって、事件を起こさないといいなと思いますよ。今の官僚は、自己承認欲求という意味では、全く承認されていない。強い権力のもとで、愚かなことだとわかっているのに、明らかなウソを言わされる。こういう構図は、政府だけでなくて、いろんな会社で生じていますよね。

桐野:これだけ政府に対して不信感がある状況ってすごい事態だと思います。役人時代の前川さんの座右の銘は、「面従腹背」だったそうですね。官僚のお仕事はお忙しいと聞いています。

前川:今、国会でウソをつかされている役人のように、馬鹿げたことで忙しいこともあるんですよ。一度ウソをつくと、それをウソで固めるという膨大な作業があります。国会中なんて、ずっとその作業をしていますよ。だから今、官僚を辞める人も増えています。中央省庁にキャリアで入っても、こんなところに長くいたくない、と。

桐野:政治や中央省庁がそんな状況なんですから、日本が悪い方向に向かうのも当然という気がします。

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