ただ、頂点に立てると本気で信じていたから、平昌の銀メダルにはこれまでにない無念が透けた。

「まさかあの順位だとは思わなかった」

 優勝した米国のショーン・ホワイト(33)との差はわずか2.50ポイント。紙一重で喫したこの黒星が、平野の背中を押すことになった。

「悔しさは十分に感じました。ただ、その悔しさを生かすようなことをしないと。悔しいだけで終わるのは、やっぱりもったいない。受け入れながら、どうやって『次』をめざすのか」

 出した答えの一つが、五輪の新競技・スケートボードへの挑戦だった。

「正式種目になった以上、スルーするわけにはいかない。(平昌五輪後)何をしないといけないかって考えた時、そこにスケートボードがあった」

 競技の転向ではなく、両立。挑むのは、あくまで二刀流だ。

「人間として成長していきたい。人として強くなりたいんです」

「自分のために、自分で決めました。正直、人に言われることではないし。誰かに言われて始めるというのは、すごく恥ずかしいことだから」

 ただ、二つはまるで違うスポーツだ。見た目は似ていても、共通点は少ない。あるスノーボードコーチが言う。

「重心の位置が違うし、スケボーは足が固定されていないから、板を扱う感覚がスノボとは異なる。車輪で走るスケボーが進むのは前後だけど、スノボは左右にもスライドするから滑っている時の体感も違う」

 両立の難しさは、平野も実感しているところだ。

「『スノーボードをやっているから、スケートボードがうまい』なんてことは一切ない。ゼロから100まで積み重ねないと。『やりたい』って言ってすぐやれるほど簡単じゃないことは、僕が一番感じている」

 似て非なる二つの競技。スケボーに時間を割いた結果、せっかく積み上げてきたスノボの競技力が落ちてしまう危険性もある。雪上で築いた実績と名声は、すでに超一流。なのに、リスクを冒してまで、スケボーに手を出す必要が? 本人にそんな質問をぶつけたことがある。

 答えは明快だった。

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