帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
山田太一さん (c)朝日新聞社
山田太一さん (c)朝日新聞社

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「旅情にひたってみよう」。

【写真】山田太一さん

*  *  *

【ポイント】
(1)可能性を断念して心の平安を手にする
(2)人間はかなしい存在であるのを忘れない
(3)人間はすべて生まれた時から単独旅行者

 以前にも紹介しましたが(2018年6月29日号)、私の愛読書に『生きるかなしみ』(ちくま文庫)という本があります。脚本家の山田太一さんが編者になり、さまざまな方の文章が集められています。最近、読み返してみて、まさにナイス・エイジングのヒントになる本だと思いました。

 まず山田さんご自身が、「断念するということ」というタイトルで文章を書かれています。

「大切なのは可能性に次々と挑戦することではなく、心の持ちようなのではあるまいか? 可能性があってもあるところで断念して心の平安を手にすることなのではないだろうか?」

 こう問いかけたあと、次のように続きます。

「一個人の出来ることなど、なにほどのことがあるだろう。相当のことをなし遂げたつもりでも、そのはかなさに気づくのに、それほどの歳月を要さない」

 そして、「そのように人間は、かなしい存在なのであり、せめてそのことを忘れずにいたいと思う」というのです。

 山田さんは人間のはかなさ、無力を知ること、つまりは可能性を断念することで、心の平安を得ることができるとおっしゃっているのだと思います。それは生きるかなしみに向き合うことでもあります。

 こういう心境に若い時になるのは無理ですね。でも、人生も後半を過ぎると、その気持ちがわかるようになってきます。生きるかなしみをかみしめることで、逆に心が自由になるようなところがあるのです。

 この本には水上勉さんの「親子の絆についての断想」という文章も収録されています。そのなかで水上さんは自分が捨てた子どもに35年ぶりに再会したことを明らかにしたうえで、「人間はすべて、生まれた時から、単独旅行者だ」とおっしゃっています。さらには、「云えることは誰もが孤独な旅人だということだ」とも。

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら
次のページ