まさにその通りです。人はみんな、生きるかなしみを抱えた孤独な旅人なのです。それさえわかっていれば、老いることもそんなに怖くありません。ただ、淡々と自分の道を歩んでいけばいいのです。そして、最後は虚空に向かって、力強く旅立っていくのだと私は思っています。

 しかし、日常生活ではそのことを忘れがちです。だから、それを思い出すために、時折、旅情にひたることが大事になります。一人でぶらりとどこかに旅に出られればいいのですが、そんな時間がありません。

 そこで私は地方に出張に出かけたときに、帰路の空港や駅のレストランで旅情にひたることにしています。お伴は生ビール2杯と焼酎のロック2杯。時間にして40分ほどです。

 グラスを傾けながら、わが来し方行く末の日々に想いをめぐらしながら、83年の人生を俯瞰してみるのです。するとどうしたことか、あの日、この日の人生の一コマ一コマが、いとおしくなってきます。そして、生きるかなしみのなかから、明日への希望が漂い出してくるのです。

週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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