もともと、技術レベルは高い。謹慎前にも世界ランク2位に上り詰めるほど実力はあったが、桃田は当時をこう振り返る。

「走る練習も嫌いだったし、ウェートトレーニングなんか、正直、やって意味があるのかと思っていた」

 試合時間が長くなると、スタミナがなくなり、負けた。それが、謹慎中から毎日しっかり走り込んだことで、体力的な不安が消えた。

 相手のネット際に落とすヘアピンに豪快なスマッシュと、多彩な攻撃で相手をほんろうするスタイルを封印。相手に思うように強打を打たせないロビングの技術を繰り返し練習し、長いラリーで勝つ「ディフェンススタイル」が復帰後の桃田の礎になった。

 18年1月に日本代表に復帰。その夏に、日本の男子シングルス史上初めて世界選手権を制した。

 今年に入ってからは、これまで磨き上げた守備に加え、攻撃のスピードアップを目標に掲げてきた。速いラリーの練習に取り組んだ成果が出たのは、8月にスイスのバーゼルであった世界選手権。格下相手でも1ゲーム当たり平均10.8失点と無駄な得点を与えず、5試合の平均試合時間は40.2分と、スピードゲームで勝ち上がり、進化した姿を見せつけた。

 地元開催での五輪は、これまで以上にプレッシャーがかかる舞台となる。日本代表の朴柱奉監督は、課題をこう挙げる。

「先にやられると気持ち的にも焦ってしまう。いかに先手をとれるかが大事」

 最近、桃田はよく08年の北京五輪決勝の動画を見るという。母国開催の五輪で、地元の英雄・林丹(中)がリー・チョンウェイ(マレーシア)を圧倒する試合だ。

「応援を力に変えるというか。迷いがない。相当積み重ねて、練習も取り組んで、ほぼ完璧な試合内容。自分はそういうところを見習っていきたい」

 違法賭博問題から復帰した直後は、東京五輪に対する思いを聞かれても「今はまだ考えられない」と口にしていた。でも、今は違う。

「来年、東京で活躍することが支えてくれたみなさんへの最高の恩返しになる」

 積み上げてきた力を発揮する舞台が、もうすぐやってくる。

週刊朝日  2019年12月27日号