建物が傷んだ寺院。お寺を維持するには多額の費用がかかる
建物が傷んだ寺院。お寺を維持するには多額の費用がかかる
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(左)自身も地方で住職を務める水月昭道さん/『岐路に立つ仏教寺院』(法藏館)の編著者の一人、川又俊則・鈴鹿大学教授
(左)自身も地方で住職を務める水月昭道さん/『岐路に立つ仏教寺院』(法藏館)の編著者の一人、川又俊則・鈴鹿大学教授

「住職と連絡が取れない」

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 東京都に住む50代の男性は9月、神奈川県の叔父からこんな相談を受けたという。叔父は父方の実家を継ぎ、近所の菩提寺にある先祖代々の墓を管理してきた。墓には数年前に亡くなった男性の父も眠っている。

 叔父は寺で毎年ある会合について住職と連絡を取ろうとしたが、携帯電話もつながらない。近所の人たちに聞いてもわからず、直接訪ねてみたが人のいる気配もない。手紙を書いて様子を見ていると、しばらく経って、急病で入院していたと住職から連絡があった。60代後半の住職は家族がおらず、檀家(だんか)の人たちに連絡する余裕もなかったという。住職は復帰したが、寺をずっと維持してもらえるのか叔父は不安を感じている。

 このように、高齢の住職が一人で管理するお寺が目立っている。一人の住職が複数のお寺を管理するケースや、住職のいない「空き寺」も増えている。少子高齢化が進み、都市への人口流出は続く。寺を支えてきた檀家が減るなか、住職は後継者不足にも直面している。

 いまは同じ宗派のなかで住職を確保するなどなんとか維持しようとしているが、檀家が減り、なり手がいなくなれば、寺を維持できなくなるところも出てくる。

 2040年には3割の寺が消える──。国学院大学の石井研士教授が15年にまとめた試算は関係者に衝撃を与えた。

 石井教授は民間有識者でつくる「日本創成会議」がまとめたリポートをもとに、消滅する可能性がある市区町村の宗教法人を分析。その結果、当時の宗教法人全体の35.6%にあたる6万2971法人が、消滅する可能性がある「限界宗教法人」にあたることがわかった。宗教法人には神道系や仏教系、キリスト教系などがある。仏教系全体でみると、限界宗教法人の割合は約3割を占めるという。

 文化庁の「宗教統計調査」によると、仏教系の寺院は17年に約7万7千あり微減している。『お寺さん崩壊』(新潮新書)の著者で、自身も地方で住職を務める水月昭道さんはこう指摘する。

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