完成した山田洋次監督の胸像の前でツーショットにおさまる小泉信一記者=東京・柴又、2014年11月撮影
完成した山田洋次監督の胸像の前でツーショットにおさまる小泉信一記者=東京・柴又、2014年11月撮影
3度マドンナを務めた竹下景子さんのトークショーでは司会を務めた小泉記者=東京都葛飾区、2012年2月 (c)朝日新聞社
3度マドンナを務めた竹下景子さんのトークショーでは司会を務めた小泉記者=東京都葛飾区、2012年2月 (c)朝日新聞社

 12月27日、「男はつらいよ お帰り 寅さん」が公開される。1969(昭和44)年のシリーズ誕生から50年、50作目の新作だ。週刊朝日ムック「わたしの寅さん 男はつらいよ50周年」(朝日新聞出版)を監修した新聞記者・小泉信一氏が、山田洋次監督らとの対話を振り返りながら、この大作を語る。

【写真】3度マドンナを務めた竹下景子さんのトークショー

 記者は運命論者ではないが、この映画が誕生したのはどこか必然のようなものを感じる。主人公の車寅次郎を演じた故・渥美清さんも「本当に寅さんっていたんですよ」とファンに教えられたという。

 実際、柴又には戦時中、酒好きで「兵隊トラさん」と呼ばれた男がいた。乱暴者とか、脱走兵とかうわさされたが、帝釈天の門前で悪さをすることはなく、冠婚葬祭の世話役をいつも買って出たという。兵隊が出征するときは参道でこんな演説をしたそうだ。

「世の中、窮屈になって、大きくなるのはちくわの穴だけヨ」

 たしかにそんな人物がいてもおかしくない。ときにけんかをしながらも、楽しく過ごせる家族や仲間。そんなリアリティーがあるからこそ、寅さんがいまも多くの人に受け入れられるのではないか。

「スカブラ」という言葉がある。「仕事が好かんでブラブラしている」「スカッとしていてブラブラしている」が語源。九州の炭鉱労働者の間で使われていた符牒である。仕事をサボりながらも面白い冗談を言っては周囲を笑わせたという。だがひとたび事故が起きると、先頭に立って大声で指揮をとり大活躍した。

 寅さんはまさに「スカブラ」なのである。スカブラのような存在がいなくなると、世の中ますます窮屈になるのではないか。

 以前、分子生物学者の福岡伸一さんと対談したことがあるが、魚は波の揺れに身を任せ、できるだけ泳がないようにしているのだという。

「アリも2割ぐらいは働いているフリをしている。その2割を排除しても残りの2割は働かなくなります。『自由であれ』と遺伝子が命じているのです」

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