昨年9月6日、東京都内で開かれた記者会見。監督は言った。

「(映画がシリーズ化された)1960年代後半から70年代前半にかけては日本人が一番元気だった時代ではなかったか。あの時代に生まれた寅さんにもう一度巡り合い、新しい次の時代へのギアチェンジにしたい」

 同席した倍賞千恵子さんもこんなことを言っていた。

「50年の間、寅さんがずっと皆さんの心の中に生きていて、その心が山田さんを動かして映画が作れるようになったんじゃないかな」

 そう。その言葉通り、寅さんは映画の世界を離れ、不思議なリアリティーを持つ存在になっていた。精神科医・名越康文さんが言っていたのだが、寅さんは「お天道様が見てるぜ」と慰め、苦悩する者のために骨を折る。まさに「現代の菩薩」というのである。

 高齢化社会、無縁社会、貧困と格差……。深刻な問題に直面している現代ニッポン。「幸せかい?」と寅さんが投げかけるメッセージが映画の底流を貫くテーマだ。寅さんが思いを寄せてきた歴代マドンナも今回登場。地方の美しい風景も描かれている。

 そして、オープニング主題歌を歌うのはサザンオールスターズの桑田佳祐さん(63)。ハスキーで魅力ある歌声。仁義を切って口上を述べる場面もある。

「人生はつらいことばかりではない」

 ということを何よりもまず気づかせてくれる映画である。あの愛嬌(あいきょう)あふれる四角い顔が再び私たちの前に現れる。

週刊朝日  2019年12月20日号