昔々のお話のように、抑揚たっぷりに、何ともゆったりとしたテンポで、白石さんは話す。でも、10代で一つの芝居、それも義理の息子と恋に落ちる女の役にのめり込むというその感性は、並ではない。幼い頃はどんな少女だったのかと聞くと、「常に、体の中から湧き上がるリズムに合わせて踊っているような子でした。お芝居も好きで、学芸会なんかでも、役を演じていると、何か特別なものが、この胸のあたりにグッと入ってくるような感覚があって。肉体を使って何かを表現するときに、つい血が騒ぐというか。質としては、そういうところがあるわね」と言って、また福々しい笑顔を見せた。

「だから、女優の道に入って大正解だと思っています。子供の頃は、自分の中にある情念みたいなものって、厄介だなぁと思ってね。普通に暮らしていたら、その胸騒ぎを、どうしたって処理しきれなかった。でも、演じることで心を鎮めるとか、自分とは違う何かになることでその情念を発散するとか、いろんな感情の整理がついた。今月で78歳になりますけど、インタビューなんか受けても、あれはどうだったこれはどうだったと一生懸命考えるから、脳が活性化するし、女優になっていろんな得はしていると思う(笑)。まだ、これからも女優の仕事が続くとしたら、こんなにありがたいことはないです。ご要望があればね、できるだけ出演したいですね。ただ、舞台の場合は、大体が2年先ぐらいまで予定が詰まっていて、体がもつかしらと心配していたら、ここのところにきて、私の体を気にしてくださるのか、ほとんどオファーがないんですよ」

 冗談とも本気ともつかない口調で、白石さんがそう言うと、近くにいたマネージャーさんが、「そんなことはないです!」と即座に否定した。すると白石さんは、「でも、そんなに才能豊かではないので、あっちもこっちもなんでもやります、というわけにはいかないです。せっかくやるからには何か、新鮮に感じられるものがないと」。

次のページ