劇団で22年を過ごした後、現在の自分に最も影響を与えた舞台は、演出家の鴨下信一さんと1992年に始めた「百物語」だったと断言する。「岩波ホールで、白石加代子が、怖い話を百話語る」ということを出発点にしたこのシリーズは、8年後にはニューヨークでの公演を成功させ、大好評のうちに、2014年まで続いた。

「劇団にいた頃は、激しくて、強い女の役がほとんどだったけれど、『百物語』をやるようになってからは、コメディー的な作品へのオファーも増えました。劇団では、『客席を決して意識するな』という教えだったので、お客様と目を合わせることはなかったけれど、『百~』では、お客様に語りかけることが日々続いて、お客様の笑いを待ってから、次に進むなど、お客様との舞台上でのコミュニケーションを、様々な角度から学びました。地でできるような、日常的なふわっとしたおばさんの役や、子供の役もあったりして、本来なら難しい、日常と地続きの役とも、『百~』を通して出会うことができたんです」

 年齢については、あまり考えずにやってきた。ただ、毎日必死に舞台のことばかりを考えていた時期を経て、50歳を過ぎた頃から、日常を大事にするように。

「舞台をやっているときは、舞台だけに集中していたけれど、年齢がいってからは、日常、特に食事がものすごく大事になってきました。毎日、朝晩の食事は、必ず自分で作って、家で食べます。主人(※早稲田小劇場時代の先輩で、現在のマネージャー)の健康も考えると、外の食事は味が濃すぎるし、油っこいでしょう?私は乳製品が食べられないから、家で作るのが一番。朝は玄米を食べさせたいので、吸収をよくするために、玄米を炒って蕎麦の実や黒米を入れて煮て、それをハンドミキサーで砕いて、冷凍。それをまとめ炊きしたご飯と合わせて、朝はおかゆにしています。1週間に一度、宅配のお野菜、冷凍のお肉、お魚が届くので、おかずはそれを料理するだけ。手抜きです(笑)。ただ今は、体のためには何でもするぞという気持ち。体のためなら、お金も湯水のように使おうって(笑)」

 ご馳走といえば魚で、丸ごと一尾の魚を、捌くこともできるそう。

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