「合評」というかたちで、それぞれの習作について、少人数で語り合う。率直に、それぞれの意見を交わす営みが伝統だ。その場に浸ることが、朝井の創作意欲に火をつけた。

 ほどなく小説現代長編新人賞奨励賞を受け、デビューを果たす。どんどん書きつづけ、次々と賞を受ける人気作家へと駆け上る。

 立ち止まるわけにはいかない日々で、夫の存在は大きい。直木賞を受ける頃、スケジュールが日々混乱するほど忙しくなった。同じ頃には、近くに住む義理の親の在宅介護も分担した。世話をされる人の切実さ、気の抜けないケアの大変さが身に染みた。

「もうあかん」と思い、同じく居職で広告業を営む夫に家事をシェアするよう“交渉”に乗り出した。

「時間がなかったので、スパルタで料理など仕込みましたが、えらい抵抗に遭いました。教えられるの、いややったんでしょうね。ほとんどけんかしたことなんかなかったのに、互いに包丁を持ったまま怒鳴りあって危ないこと(笑)」

 そもそも温和な夫はやがて買い物上手になり、おでんにカレーライス、ガパオ飯までこしらえるようになった。今では日々おいしいごはんをいただき、活力を得ている。「洗濯の仕方も、私よりきめ細かいかもしれません」

 23歳という、年老いてから引き取った犬の存在も大きい。鳥も虫も好きで、クモ、カメムシ、ゴキブリが現れても「ああ、いてるなあ」とスルーする。

 今年の年賀状は初めて、夫婦ふたりと犬猫の写真を使った。このメンバーがそろってるのもそう長くはないか、と。

「猫は女子やけど年をとるにつれ、伊東四朗さんに似てきました。テレビに出てはると、つい呼びかけてしまうぐらい」

 サービス精神からユーモラスに語りつつ、隠しきれない情愛がのぞく。

「朝はえっちらおっちら、2階の私の寝床に来て、眠っている私にのっかって、かなりいろいろ仕掛けてくるらしい(笑)」

 らしい、というのは、朝方まで書いて熟睡するので、めったなことでは目を覚まさないからだ。

「ほっとかれたら、サザエさんの番組が始まる夕方頃まで眠るかも。睡眠が大好きなんです」

 さほどに厳しいスケジュールだが、不思議な感覚に包まれることがある。

「40代後半からと、大変遅いスタートやったから。私、小説を書いてるんだなあ、夢みたいやなあ、とふと思うんです」

 大阪人として、あまたの作品を残した井原西鶴に思いをはせることがある。かつてのインタビューでこんな信条を明かした。

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