厄介なのは、偽造された職歴を技能実習生本人が知らない、または、覚えていないことだ。特定技能の申請時に履歴書の提出が求められるが、技能実習時に提出した履歴書と職歴が違えば、はじかれる。技能実習生受け入れを行う監理団体などのコミュニティーサイトを運営する国際人財支援機構の高井修一社長の解説。

「監理団体には技能実習終了日から1年間、履歴書を保管する義務がありますが、なくしてしまったと言われれば、過去の履歴書を確認する術はありません」

 実務面でも壁がありそうだ。来年2月に『特定技能制度の実務』を出版する山脇康嗣弁護士はこう話す。

「提出書類が多く、申請書類は1人あたり150枚を超えます。制度自体も難解で、同じ建設業でも技能実習制度では認められたとびが特定技能では認められないなど、受け入れ可否の判断からして複雑です」

 進まない受け入れに、業界団体も声を上げ始めた。

 日本商工会議所は10月、外国人の受け入れに関する相談機能の強化・拡充や対象職種の拡大を求める要望を発表。日本商工会議所の担当者は話す。

「特定技能の交付・許可件数が少数にとどまる一方、これまで外国人材を受け入れたことがない中小企業から、何をすればいいかわからないという声が多く寄せられています」

 受け入れ態勢が整わないベトナムに代わり、他国へシフトする動きもある。

「1日最大8社の視察が入るなど、注目が集まっています。ベトナムの次を探す動きが加速しています」(送り出し機関「ミャンマー・ユニティ」事業責任者の大澤夕子さん)

 制度開始から半年。人手不足は解消されない一方、拙速審議のツケは、現場が払わされている。(ジャーナリスト・澤田晃宏)

週刊朝日  2019年11月29日号