──田畑さんは84年、85歳でお亡くなりになりました。その20年後の04年アテネ五輪で、初めて東京SCから金メダリストが誕生します。男子平泳ぎの北島康介さんです。中村さんも同じ平井伯昌コーチの指導を受けて、アテネ、08年北京両五輪の女子200メートル背泳ぎで銅メダルに輝きます。日本競泳女子で2大会連続メダルは、平泳ぎの前畑秀子さん以来、72年ぶりでした。平井コーチの練習には、どういう特徴があるのでしょう。

中村:たくさん泳ぐというよりも、内容が濃くて、練習の中で本番のレースを意識したメニューがあります。ただ練習を頑張るというのではなく、試合のために頑張るという意識を選手に持たせる内容です。当たり前のようですが、私の場合、できていなかったところがありました。平井コーチは五輪のメダリストを出すんだという気持ちが強くて、常日頃から、それを感じながら練習していました。「いだてん」の田畑さんが世界を狙う熱い姿は、平井コーチと似ていると思います。

──田畑さんと平井コーチに共通点があると?

中村:私には一緒にしか見えません。「いだてん」の田畑さんと同じように、平井コーチも五輪にかける熱い思いがあります。アテネ五輪で北島さんが金メダルを取ったとき、「俺は、ここを最高の日にはしないんだ」と話していました。だからこそ、今も日本代表のヘッドコーチをされていると思います。決して現状に満足はしない、上をどんどん目指していくという部分が、田畑さんとすごく似ているなあと思います。

青木:田畑さんが東京SCをつくらなかった場合、おそらく北島さんが金メダルを取るのは無理だったでしょう。平井コーチも北島さんと出会って、結果を出すことによってコーチとして大きな財産を得た。すべては田畑さんにつながっていると思います。田畑さんが全部をつなげているという印象を持っています。

──最後に来年の東京五輪への思いを、お二人にお聞きしたいと思います。

中村:勝負は始まっています。どの選手も今までやってきたものを東京五輪にぶつけようと、すごいプレッシャーの中で頑張って練習しています。田畑さんの思いと一緒に日本チームを一生懸命応援したいと思います。

青木:水泳界としては「センターポールに日の丸を」というのをスローガンに掲げています。この目標に向けて全力で取り組んでいきます。水泳連盟の目標はもう一つ、普及です。普及と強化は別物ではありません。国民皆泳を目指す普及をベースに泳ぐ人を増やし、そのことが選手の底辺を広げ、頂点につながっていく。こういったことが促進できる東京五輪にしたいと考えています。

(構成/朝日新聞・金谷智美、本誌・堀井正明)

週刊朝日  2019年11月8日号