「治水対策は堤防の強化が基本で、ダムでは水害は防げません。大型台風の襲来やゲリラ豪雨が頻発しており、堤防からの越流水は避けられないのかもしれませんが、絶対に破堤させないことが肝心なのです。堤防が決壊すると被害は一気に拡大します。近年、水害によって多くの高齢者の方々が犠牲になっていることを、直視しなければなりません。避難しようにも逃げられない、寝たきりの人もいるのです。そういうことも考慮しながら、河川の技術者は堤防設計をしなければならないのです」(大氏)

 八ツ場ダムや吉野川可動堰(ぜき)など、治水問題に関わってきた武田真一郎・成蹊大学法科大学院教授(行政法)も、ダムには懐疑的だ。

「近年のようなゲリラ豪雨では、ダムは機能しません。すぐに満水になってしまい、緊急放流しなくてはならなくなる。かえって水害の危険が高まるのです」

 実際に2018年7月の西日本豪雨では、愛媛県の肱川上流にある野村ダムなどが緊急放流し、広範囲な浸水被害を起こした。武田氏が続ける。

「さらに問題なのは、上流から土砂がダムに流れ込んで起きる『堆砂』(たいさ)が、進んでいることです。多くのダムが堆砂によって容量が少なくなっているのです。八ツ場ダムはたまたま試験貯水中で空っぽに近かった。もし通常運用で水がたまっていたら、緊急放流で洪水になる危険性があった。堤防強化は比較的簡単にできるのに、国や自治体は巨費がかかるダム建設を優先しています。堤防強化は利権にならないから、魅力がないということなのでしょう」

 水害を防ぐには、ほかにも森林保護や川の浚渫(ルビ/しゅんせつ)、下水道の整備などやるべきことはたくさんある。こうした対策が十分なされてこなかったことが、「国民の生命と財産」を危うくしている。

 相次ぐ被害でわかった“間違いだらけの水害対策”。いつ被災するかわからない私たちが、正していくしかない。(本誌・亀井洋志、多田敏男)

※週刊朝日オンライン限定記事