榎木孝明が感動…死を前向きに捉える“看取り士”とは? 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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榎木孝明が感動…死を前向きに捉える“看取り士”とは?

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菊地陽子週刊朝日
榎木孝明(えのき・たかあき)/1956年生まれ。鹿児島県出身。78年に劇団四季に入団。81年「オンディーヌ」で初主演。退団後、連続テレビ小説「ロマンス」の主演でドラマデビュー。ドラマ「浅見光彦シリーズ」では7年にわたり主演を務めた。水彩画家としても活躍 (撮影/写真部・掛祥葉子)

榎木孝明(えのき・たかあき)/1956年生まれ。鹿児島県出身。78年に劇団四季に入団。81年「オンディーヌ」で初主演。退団後、連続テレビ小説「ロマンス」の主演でドラマデビュー。ドラマ「浅見光彦シリーズ」では7年にわたり主演を務めた。水彩画家としても活躍 (撮影/写真部・掛祥葉子)

「面白い人がいるんだけど」

 知人にそう言われると、すぐ会ってみたくなる。十数年前、日本海にある小さな島を訪れたとき、“看取り士”という職業に就く、柴田久美子さんという女性に出会った。

「病院ではなく、自宅などの慣れ親しんだ場所で、尊厳ある死を迎えたい。そんな希望を持つ人の思いに寄り添うのが“看取り士”の仕事だと伺い感動して、『いつか、死生観をテーマにした映画を一緒に作れたらいいですね』と口にしていました。私自身、世の中の死に対する、死はつらく悲しいものだという概念を、もっと前向きなものに変えたいと思う気持ちが、ずっとあったのです」

 榎木孝明さんにとって、幼い頃から死は身近なものだった。

「昭和の半ば、鹿児島の田舎では、生まれるときも死ぬときも自宅が当たり前でした。葬儀だって村中で協力して取り仕切ったし、結婚式も祭りも、全てが命を繋いでいく儀式であるような感覚でした。でも、現代社会は、死を遠くへ追いやってしまった。死に対する恐怖や悲しみは、その弊害なんじゃないか。本来、死はもっと身近で、前向きに捉えるべきものではないかと私は思うのです」

 柴田さんとの十数年来の約束を果たし、看取り士の物語は映画「みとりし」になった。榎木さん演じる主人公は、娘の死を受け入れるために、長く勤めた企業を辞め、看取り士となり、幼い頃に母を亡くした若い看取り士の女性と、様々な死の瞬間に立ち会い、看取っていく。

「子どもが生まれると、みんな“おめでとう”と言いますよね。でも私は、死もまた、祝福されるべき時間だと思うのです。死んで終わりではない。肉体は滅びても、魂は不滅です。死は魂の通過点で、生きている人へのバトンタッチの瞬間だと思えば、怖がる必要はない。逝く人から見送る人へ、うまくバトンが渡せればお互いが幸せで、それをうまくお手伝いすることが、看取り士の仕事なのかなと思います」

“無限の可能性”という言葉が好きで、よく使うという。4年前、59歳のときに、30日間の不食を公表するなどして話題になったが、古武術を教えていると、人間の肉体がいかに無限の可能性に満ちているか、実感することがしばしばあるそうだ。

「年齢を重ねることも、経験を積み重ねていることではあると思うけれど、肉体的にも精神的にも、衰えているとか、老いているという感覚はないです。古武術で大事なのは、不要なものを捨てること。力を入れないこと。西洋的な、“筋肉トレーニングをした結果、肉体が強くなる”という常識とはまったく逆です。余計なものを捨てて、捨てて。その先に、もともと自分の中にあった本当の力に気づく。だから、古武術をやっていると、今ある常識は覆されます。本来、人間の可能性は、常識なんかには収まらないものなのだ、と」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2019年9月20日号


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