「エルトンは規格外の人生を送ってきたが、その人生の、むしろ悪い、醜い部分を包み隠さず描いた」と監督が言った。「アーティストはどん底にいる時の方が、名曲を生む。自らの欠落を吐き出す。それが芸術だ。(フェデリコ・)フェリーニや(マーティン・)スコセッシのように何度観ても新しい発見がある映画を作りたいんだ」

 10代の頃のエルトンが印象に残ったと僕は言った。無垢だからこそ傷つきやすい少年と、親との葛藤がリリックに描かれていた。

 フレッチャー監督は「自分を投影したのはその部分だ」と頷いた。彼はアラン・パーカー監督の『ダウンタウン物語』で子役デビューの経歴を持つ。その作品は今もロンドンっ子に人気だ。

「私は10歳そこそこだった。でも、子どもの頃に名声を得てもロクなことはない」と六本木の高層ビルから東京の街を見下ろした。「確かに才能は飛び抜けていたかもしれない。しかし、その年で親の何倍もの収入を得るのは異常なことだ。親子関係はより複雑になる。でも、そういう家庭に私は興味を持った」

 フレッチャー監督は自身の10代を自作に込め、少年の孤独を描いた。

♪地球が恋しい あいつに会いたい 宇宙ではこの通り、ひとりぼっち♪

(『ロケット・マン』バーニー・トーピン作詞)

 ひとりの天才アーティストの青春の行方を描いた映画『ロケットマン』。僕はエルトンの人生を自分に置きかえ、その行方をじっくりと味わった。

週刊朝日  2019年9月13日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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