いまや絶滅寸前!? 上品で柔らかな「船場言葉」とは? (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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いまや絶滅寸前!? 上品で柔らかな「船場言葉」とは?

連載「出たとこ勝負」

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黒川博行週刊朝日#黒川博行
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)

※写真はイメージです (Getty Images)

※写真はイメージです (Getty Images)

 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は方言について。

*  *  *
 月刊誌に連載している小説で主人公を小倉に行かせることにした。大阪の元刑事ふたりと小倉の半グレの対決シーンだ。

 わたしは小倉弁(北九州弁)が分からないので、博多出身の担当編集者に方言指導(わたしが大阪弁で書いた台詞を小倉弁に変換してくれるよう)を依頼した。

「こらおまえ、誰が吸うてええというた。いわすぞ」「あ、おれ。なにしとんや。ひとり? それやったら来て欲しいんやけどな」──。

 これらを担当編集者は、

「きさん、誰が吸っていいっちった。くらすぞ」「あ、おれ。なにしよん。ひとり? そやったら来て欲しいっちゃけど」──。

 と直してくれたので、わたしはそのとおりに変えた校正原稿を返したが、担当編集者は念のため、小倉出身の編集者にその原稿をまわした。

 その結果が──。

「きさん、誰が吸っていいっつったかちゃ。くらすぞ」
「あ、おれ。なんしよん。ひとり? やったら来て欲しいっちゃけど」

 という台詞になったから、同じ福岡県でも博多弁と小倉弁はけっこうちがうのだと分かった。

 これと同じことが関西弁でもいえる。京都、大阪、奈良、神戸、和歌山では言葉もイントネーションもまるでちがう(他府県からみて、関西弁とひとくくりにすることが、そもそもおかしい)のだ。

 わたしは愛媛県で生まれて幼稚園のとき大阪に来た。大阪市内で育ち、大学の四年間は京都に住み、就職して大阪にもどった。家は茨木、箕面、羽曳野と移ったから、大阪弁のもとになった摂津弁、河内弁、泉州弁、船場言葉は、聞けばすぐに分かる。

 摂津弁は大阪市内で多く使われる、もっともクセのない、いわば“大阪弁スタンダード”。河内弁は少し巻き舌気味で、摂津弁とは語尾が少しちがう。泉州弁はかなりクセがあって、岸和田あたりに行くと、アクセントもイントネーションもちがうし、紀州弁の影響か、ザジズゼゾが曖昧なひともたまにいる。和歌山生まれで泉南市在住のわたしの友だちがそうで、座布団がダブトンになり、銅像がドードーになるから、話していると愉しい。むかし、その友だちとマカオへ行って帰りの飛行機に乗り込んだとき、スチュワーデス(いまはCA?)に席を訊かれて、友だちは「エイティーン・ディー」と答えた。親切な彼女は彼を「18-D」の席に案内してくれたが、そこには先客がいた。「ダブルブッキングやで」とむくれる彼の搭乗券を確認した彼女は「ユアシート・ジー」といい、彼は「オー・ディー」とまじめな顔で復唱したから、わたしは大笑いした。


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