秋の臨時国会は10月に召集される見通しだが、安倍晋三首相は改憲議論を加速させている。
参院選で与党が改選過半数超えを理由に、憲法改正について「少なくとも議論すべきだという国民の審判は下った」などと語ってみせた。だが、自民党は57議席止まりで単独過半数を失い、「改憲勢力3分の2」も届かなかった。国民が憲法改正など求めていないのは明らかだ。
朝日新聞が7月22、23日に実施した世論調査でも、安倍首相に一番望む政策で最も多かったのは「年金など社会保障」の38%で、「憲法改正」はたったの3%に過ぎない。
憲法審査会委員で、立憲民主党の近藤昭一衆院議員がこう語る。
「安倍首相は野党を分断して改憲勢力に引き込もうと前のめりになっています。野党は審議拒否ばかりで、議論に応じないという印象操作もしているのでしょう。しかし、憲法審査会は国民の声を受けて開催されるものです。憲法は権力者を縛るものであり、安倍首相が先導して改憲議論をしようとすること自体おかしいのです」
自民党が示した「改憲4項目」は、(1)9条への自衛隊明記(2)緊急事態条項(3)参院選・合区の解消(4)高等教育の無償化――となっているが、安倍首相が最もこだわるのが(1)だ。ある自衛官が子どもから涙ながらに「お父さん、憲法違反なの?」と尋ねられたという真偽不明のエピソードを講演会で披歴し、「このままでいいのでしょうか?」と訴えてきた。現行の9条1項(戦争放棄)、同2項(戦力不保持、交戦権の否認)を維持したまま、「9条の2」を新設。「自衛隊」を明記することで“違憲論争”にケリをつけるのが目的らしい。
安倍首相は「平和主義はこれからも堅持していく」とくり返し述べている。自営隊の存在を書き加えるだけで大きな変更はないかのような口ぶりだが、それはゴマカシだろう。新しい条文には9条を吹っ飛ばす爆弾が仕組まれているのだ。