憲法学者で慶応大学名誉教授の小林節氏がこう指摘する。

「9条があるために必要最小限の自衛しかできないというのが、これまでの政府見解です。ところが新しい『9条の2』には、『前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず』とあり、政府が必要と思った自衛戦争は、9条の1項、2項に妨げられることなくできることになっている。そのために自衛隊という名の国防軍を置くという趣旨で、完全に9条を殺しています。これでは国際政治の場で軍事力をチラつかせる米国やロシア、中国と変わらなくなる。野党は安倍改憲のインチキを国民に向けて発信するべきです」

 だが、ヘタに国会での改憲論議に応じれば、安保法制、共謀罪、カジノ法で踏んだ同じ轍だ。「審議は尽くした」と称して、最後は数の力にものをいわせて強行採決されるだけだ。

「とはいえ、野党は審議拒否したまま話題にもしないのはダメだ。メディアやSNSを使って『安倍改憲はこんなに危ない』と正確なメッセージを送る必要があります」(小林氏)

 そもそも、自衛隊を条文に書き込むこと自体が憲法になじまない。憲法に固有名詞があるのは、天皇、国会の衆参両院、内閣、最高裁判所、会計検査院の五つだけ。中央省庁名や都道府県名は書かれていないし、自衛隊を管理する防衛省も明記されていないのに「自衛隊」だけ明記するのは不合理だ。

 先走る安倍改憲に与党内からも異論の声が上がる。公明党の山口那津男代表は、テレビ番組で「改正する必要は今、どこにあるのかはっきりしません」とけん制していた。

 だが、その一方で、安倍政権への配慮を続ける公明党。こうした態度に対し、母体の創価学会の一部から“反乱”の狼煙が上がっている。参院選では、東京選挙区で創価学会員が山本太郎代表率いるれいわ新選組から出馬し、公明党と学会執行部を批判した。他の選挙区でも、野党陣営で学会の三色旗が翻る光景が見られた。

 元公明党副委員長の二見伸明氏がこう語る。

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血の雨が降ることを覚悟して