改葬作業の状況。墓から取り出された骨壺は丁寧に扱われる=サンテレーヴ提供
改葬作業の状況。墓から取り出された骨壺は丁寧に扱われる=サンテレーヴ提供
引き取り手のない遺骨を預かる横須賀市の施設 (撮影/池田正史)
引き取り手のない遺骨を預かる横須賀市の施設 (撮影/池田正史)
合葬墓のチェックポイント (週刊朝日2019年8月16日―23日合併号より)
合葬墓のチェックポイント (週刊朝日2019年8月16日―23日合併号より)

 親が元気だからと問題を先送りすれば、後悔することになる「家」と「お墓」の問題。今回は実家のお墓をどうするかについて。

 少子高齢化が進み、核家族や単身世帯が増えるなか、家族のあり方は急激に変わった。都市部への人口流入が続き、地方は過疎化して、墓を守る人がどんどんいなくなっている。

「使用者(死亡者)の縁故者および墳墓に関する権利を有する方は、期日までにお申し出ください。お申し出のないときは、無縁仏として改葬することになりますのでご承知ください」

 地方の公営墓地では、こんな立て札が立った墓が目立つようになっている。守る人がいなくなれば墓は荒れ、いつかは撤去されてしまう。

 そこで最近、増えているのが「墓じまい」だ。家族や親族が行きやすい墓地に引っ越したり、墓そのものを整理したりする。

 厚生労働省によれば、17年度は10万4493件に達し、初めて10万件を超えた。10年前の約1.4倍の水準だ。

「主人や私の入る墓について、息子とそろそろ相談したいと思っているのですが……」

 東京都の70代後半の女性はこう話す。女性は関西出身で、同い年の夫とは20代のときに都内の職場で知り合った。結婚後に一人息子をもうけ、ずっと都内で暮らしてきた。息子は成人後に家を離れ、都内の別の場所で暮らしている。

 夫は数年前に脳梗塞(こうそく)で倒れ、寝たきりの生活が続く。女性は介護してきたが、自身も高齢でいつ何があるかわからない。実家や墓などについて息子と相談したいが、タイミングをつかめずにいる。

「主人も私も墓は引き継いでもらいたいと思っているのですが、息子はどう考えているのか。負担に思われたくないので、息子から切り出してくれるとうれしいのですが、なかなかそうはいきません」

 実は女性も一人っ子で、両親の遺骨が納められていた関西の墓はすでに墓じまいして、散骨した。両親が亡くなってから時間も経っていたため、墓参りに訪れる人もおらず、墓をどうするかは「自分だけで判断できた」という。一方で、都内にある夫の実家の墓は夫のきょうだいもいるだけに、夫婦だけでどうするかは決められない。

 女性のような悩みを持つ人は多い。親族が集まるタイミングで、思い切って話してみよう。向こうから切り出すのを待っていても、時間だけが過ぎていく。墓を守る人が将来いなくなるのなら、早めに墓じまいを検討する。

 墓じまいの増加に伴い、支援サービスを手がける企業は増えている。石材店や仏壇業者に加え、異業種から参入した代行業者もある。

 墓じまい代行サービスを展開するサンテレーヴ(埼玉県川口市)は、手続きから遺骨の取り出し、墓の解体までセットで提供。ネットを通じて比較的料金が安いとアピールしている。

「親が亡くなったタイミングで、相談が寄せられます。ある程度の予備知識を持っていても、具体的な手順や手続きとなるとわからない人が多い」(吉野操社長)

 墓を閉じるのも、引っ越しするのも、墓じまいの手続きは基本的に同じだ。行政書士ら専門家に頼むこともできるが、費用がかかる。自治体の窓口に相談しながら進めれば誰でもできる。費用を抑えるためにも、自分でやってみよう。

 まず遺骨の引っ越し先を決め、その管理者から「受け入れ証明書」をもらう。引っ越し先が決まらず遺骨をいったん手元で保管する場合は、自治体の窓口に事情を説明して認めてもらう。

 続いて、今の墓がある自治体の「改葬許可申請書」を用意する。申請書には死亡者の氏名や本籍、火葬・埋葬場所などを記入。複数の遺骨がある場合は全員分を調べ、わからない部分については「不詳」とする。必要事項を書き込んだ申請書を今の墓地の管理者に出して、署名・押印してもらう。自治体によっては改葬許可申請書とは別に、墓地の管理者の「埋葬証明書」が必要な場合もある。

 改葬許可申請書と受け入れ証明書を今の墓のある自治体に出すと、「改葬許可証」が交付される。この許可証があれば、遺骨を取り出すことができる。

 気をつけたいのが、墓じまいに伴うトラブルが増えていることだ。墓を管理してきた寺などから、高額の「離檀料」を請求されることもある。

 東京都の60代後半の男性はこう嘆く。

「寺に墓じまいを切り出すと、離檀料として100万円を請求されました。支払いを断ると、住職から『墓の移転に必要な書類を出せない。署名や押印もしない』と言われました。遺骨を人質に取られてしまったようなものです」

 男性は自分の死後、墓を管理する人がいなくなることから、祖父母や両親の遺骨を都内の納骨堂に移すことに決めた。だが、寺の高額な請求で、遺骨を移せない状態に陥っている。

 葬儀・お墓コンサルタントの吉川美津子さんは、「離檀料に法的な位置づけはありません。必ずしも払う義務はない」と言い切る。

「離檀するかどうかは本人の意思で決められます。これまで世話になった寺に対し感謝の気持ちがあるのなら、法要2~3回分程度のお金を包むとよいでしょう。トラブルを防ぐため、墓を管理できなくなる事情を普段から伝えておきましょう」

 寺にとって墓や檀家は経済的に大事な基盤だ。一方的に墓じまいを通告すればトラブルになりやすい。墓じまいを円滑に進めたいのなら、コミュニケーションも大切にしたい。

 それでは、墓を引っ越しするなら、どこを選べばいいのか。葬儀相談員の市川愛さんはこう助言する。

「子や孫ら引き継ぐ人がいるかどうか、自分の状況に合ったものを選びましょう。交通の便や墓地のタイプ、運営主体や価格なども整理して検討しましょう」

 墓にはいろいろなタイプがある。寺などが運営する「寺院墓地」、自治体の「公営霊園」、宗教法人や財団などの「民間霊園」、さらに地域で管理する「共同墓地」や、私有地にある「家墓」などがある。

 最近は遺骨を専用施設で保管する「納骨堂」が人気だ。厚労省によると、都内の納骨堂は17年度に419施設に上り、10年前から約1.3倍増えた。

 納骨堂は一代限りのものが一般的だったが、代々使えるタイプも増えた。大きさは10体前後の遺骨を収納できるものから、一人だけのものまでさまざま。内装をピンクに統一し洋風のデザインを施した、女性向けのところもある。

 値段は立地や運営主体、遺骨の収納数などによって幅がある。

「一般的な墓の場合、首都圏なら墓石代や墓地使用権を合わせて200万~300万円ほど。公営霊園は墓地使用権や管理費が安くなりますが、申し込む条件があったり、希望者が多くて抽選になったりすることがあります。納骨堂は30万~80万円ほどが目安ですね」(市川さん)

 納骨堂では、遺骨はそれぞれ区別されて納められるのが基本だ。いま人気なのが、他の人と一緒に埋葬する合葬式墓所(合葬墓)。家ごとの墓石がないので、一般的な墓よりも費用が少ない。管理は施設に任せられるので、墓が荒れる心配もない。用地不足の対策として、合葬墓を新設する自治体も増えている。

 これからの主流になるかもしれない合葬墓だが、チェックすべきポイントがある。まずは納骨の方法。最初からほかの遺骨と一緒に埋葬するものと、一定期間、個別のスペースに安置するものがある。供養の方法や期間、利便性なども確認して、自分たちに合ったところを選びたい。

 遺骨を納めるのは墓だけに限らない。粉末にして海にまく散骨、自宅に保管しておく「手元供養」などもある。いろんな選択肢があるので、どれがいいのかじっくり考えよう。

 一人暮らしで頼れる親族もおらず、孤独死が不安な人もいる。神奈川県横須賀市など多くの自治体が、収入や資産の少ない人を対象に、生前のうちに低額で葬儀の契約を結べる「エンディングプラン・サポート事業」をしている。自分の入る墓や緊急連絡先などを自治体に登録しておく事業も、全国的に広まっている。

 横須賀市の引き取り手のない遺骨は90年代半ばまでは年数件ほどだったが、近年は40件前後まで増えた。市でエンディングプラン・サポート事業を担当してきた北見万幸・福祉専門官は、そうした遺骨をなくしたいと思いを語る。

「無縁遺骨は身元の判明していないものよりも、実は判明しているもののほうが多いのです。身元が判明していても遺骨が無縁仏となってしまうのは、死後のことについて、本人や親族の意向がわからないことが原因です。事業を通じて市民の声を、できるだけ聞いておきたい」

 孤独死が不安な人は、一人で悩まず親族や自治体などに相談しよう。

 お墓の問題も実家の処分と同じように、大事なのは家族と本音で話し合うこと。わからないことは自治体や業者などに聞けばいい。先延ばししても問題は解決しない。このお盆に集まるチャンスを生かそう。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2019年8月16日号‐23日合併号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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