妻「謹慎中は基本手書きの日記帳のみ可。もしくは駅の掲示板」

私「SNSじゃねえな、それ。食べ物とかは……?」

妻「外食は厳禁ね。てんや物も寿司・ピザはパーティー臭あるからNO。そばはよし。でも鴨南蛮はダメ。セットもダメ。おろしそばよし。肉っけ・油っけは避けるべし。基本もりそば。ざるは海苔が贅沢。でもカツ丼だけは反省みがあっていいかも。タピオカミルクティーとか言語道断。甘いの飲みたかったらミロを飲め。でも牛乳割りはダメ。水で割って。ガリガリ君はソーダ味のみ。リッチのチョコミントなんか調子乗ってるよ」

私「……映画くらい行きたいな」

妻「賑やかなシネコンとか行ったら袋叩きに遭うから気をつけて。ポレポレ東中野ならいいけど開演前のスマホはNGです。文庫本か数独ね。ま、外出はせず家にあるDVDを繰り返し観るのがいいよ。『砂の器』とか『犬神家』とか『戦国自衛隊』とか」

 んー、何となく傾向がわかってきたようなわからないような。並べてみると、我が妻の考える『ヤラカシタ人間がとるべき謹慎中の行動』=『仕事以外のときの私の行動』のような気がしてきた。夫婦だからどこか気が合うのかね。つまり妻からすれば俺は普段から謹慎してるみたいなものなのか。なんか悔しい。

 明日は勇気を出してタピオカの列に並んでみっかな。いや、やっぱミロの牛乳割りからにしようか。

週刊朝日  2019年7月26日号

著者プロフィールを見る
春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

春風亭一之輔の記事一覧はこちら