マンモスや仔ウマにライチョウーーー。古生物が4万年の時空を超えてシベリアの永久凍土から、我々の前に姿を現した。日本科学未来館(東京・お台場)で「マンモス展」が始まった。展示構成の監修を務める作家のいとうせいこうさんが、シベリアで現地取材した時に体験した秘話を語る。
飛行場に降りると、冷気でまつ毛が凍りました。外気はマイナス40度を超えている。呼吸をすると肺の中から凍りつくのがわかります。「深呼吸したら死ぬぞ」と話したガイドの声が頭をよぎりました。
2019年1月30日深夜。僕は、ロシア北東部、サハ共和国の首都ヤクーツクにいました。数万年前の永久凍土から掘り起こされた古生物を、この目で見たいと思ったのです。
■日本では、05年の愛知万博で冷凍マンモスの「ユカギル」が展示された。1万8千年前の永久凍土に守られたおかげで、皮膚や体毛なども見つかった。今回のマンモス展には、「ユカギル」や仔ケナガマンモスの「ディーマ」のほか、毛が残ったままのケナガマンモスの「鼻」や「皮」に加え、仔ウマや仔イヌ、ライチョウなど古代の動物が展示されている。10年以降に発掘された状態の良い冷凍標本で、世界初公開のものが多い。■
地球温暖化の影響は、真冬はマイナス60度の極寒の地シベリアでもあります。夏は30度まで上がり、あちこちで永久凍土が溶け出して、崩れた地層からマンモスや数万年前の古生物が次々と姿を現しているのです。僕が訪れたヤクーツクにあるロシア北東連邦大学の北方応用生態研究所では、たくさんの古生物と対面しました。その一つが、18年の夏、北東大とマンモス展を合同調査チームが発掘した仔ウマ「フジ」でした。
研究所で冷凍保存されていた仔ウマの遺骸は、四本の脚はもちろん歯と歯ぐき、しっぽやまつ毛まで残っており、死んだばかりかと錯覚するほどみずみずしかった。とても4万2千年前のものとは思えません。手ぶくろを装着して触ると、仔ウマの関節は生きているかのように自由自在に動きました。職員が身体に解剖のメスを入れると、赤く生々しい肉と内臓が出てきました。そのあと、解剖を記録した映像を見せてもらいましたが、ドロリとした血液が流れ、なんと膀胱(ぼうこう)には尿が入ったままでした。