試験管に採取された尿を見た瞬間、「僕らと同じ黄色い液体なんだなあ」と妙に感心したのを覚えています。同時に、ワクワクしました。尿や血液を分析すれば、4万年前の仔ウマが何を食べてどんな生活をしていたのか、いま生きているウマと同じように調べることが出来るわけですから。

■今回展示されている、9300年前の「ユカギルバイソン」も胃の消化物を分析したところ、当時の環境などが明らかになった。1600年前のライチョウは、羽毛に覆われた肉ごと残っていた。■

 手のひらに載せたライチョウは、賞味期限を過ぎた「鶏肉」のような臭いがしました。西暦400年といえば日本はまだ古墳時代でヤマト王権の時代。なのに、臭いが残っているなんて、まるでタイムスリップ体験です。

 生後およそ3カ月の仔イヌの冷凍標本もありました。おや、と感じたのは、牙が鋭く、あごのとがったその顔立ちです。1万2450年前ですから、オオカミからイヌに進化するちょうどその過渡期なんですね。「人類最初の家畜だったのではないか」と、研究者は話していました。

 マンモス絶滅の原因が、ヒトによる乱獲との説もあります。我々のご先祖は、集団で狩りをした。狩猟に使うために、イヌを飼ったのでしょうね。もっとも、現地のマンモスのミュージアム館長によると、「マンモスの肉は硬くておいしくなかった」そうですよ。今回は、ケナガマンモスの30センチもある硬い毛も展示されていますから見てくださいね。

■帰国したいとうさんたちは、日本でマンモスをどう見せるか、その準備に追われた。■

 実はマンモス展の隠れた見どころの一つは、とくべつにつくられた「巨大冷凍展示室」です。シベリアの大自然が、数万年もの歳月、守り続けた古代の生き物たちのそのままの姿を、目の前で見ることができる環境をつくる必要がありました。標本を劣化させないためにマイナス20~25度の環境と湿度を保たなくてはなりませんが、ガラスを結露させてはいけない。展示を実現させるためには、高度な知識と技術が必要なのです。

■マンモス展は、「過去」「現在」「未来」の3ゾーンに分けられている。未来ゾーンでは、近畿大の「マンモス復活プロジェクト」チームが、生命科学の研究について解説する。
近畿大は今年3月、マンモスから採取した細胞核が、マウスの卵子のなかで動いたと発表し、注目を集めた。■

 人類は、マンモスを復活させることが出来るのか。そして人類は、生命科学の領域にどこまで踏み入るべきか――。この議論は、科学だけでなく、宗教や哲学など総合的な学問を絡めて考えていくべきものです。未来ゾーンでは、マンモス復活の研究に反対する学者の意見も展示しました。

 私たちは、未来を担う若者やたくさんの子どもたちに、展覧会に来て欲しいと願っています。部屋にこもってYouTubeやインターネットの2次元動画を見ているだけでは出会えない、「本物」が待っています。
(構成/本誌・永井貴子)

■企画展「マンモス展―その『生命』は蘇るのかー」は、日本科学未来館で11月4日まで開催。休館日:毎週火曜日(7/23、30、8/6、13、20、27、10/22は開館) 開館時間10:00~17:00 問い合わせ TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル) https://www.mammothten.jp/

※週刊朝日オンライン限定記事