「老後資金に2000万円必要」だとする金融庁の報告書が波紋を広げている。各方面から批判の声が上がっているが、識者に言わせれば2000万円でも足りないというのだ。年金制度の限界が見えてきている。
そもそもの発端は、金融庁の金融審議会が5月22日にまとめた「高齢社会における資産形成・管理」という報告書案。主に年金に収入を頼る高齢世帯の平均的な姿をもとに、こんな試算を示している。夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯では、家計収支は平均で月約5万円の赤字。蓄えを取り崩しながら20~30年生きるとすれば、現状でも1300万~2千万円足りず、長寿化でもっと多くの蓄えが必要になる。
議論に参加した委員の一人はこう漏らす。
「私たちは老後の資産形成のあり方について、客観的なデータに基づき時間をかけて、淡々と議論しただけです。老後の生活を支えるためには、年金や就労、蓄えや公的支援について、どうバランスをとっていくのか。政府や企業、国民一人ひとりが前向きに議論していくことが必要です」
こうした指摘はこれまでもあったが、首相の諮問機関である金融審議会が年金不足を公に認めたことで注目を集めた。
その後、麻生氏が「報告書を受け取らない」と専門家の審議自体を封印するような暴挙に出た。
安倍政権はなぜこんなにも慌てているのか。経済アナリストの森永卓郎氏はこう分析する。
「政府にとって痛いところを突かれたからです。政府が言い続けてきた年金の『100年安心』は、制度そのものが100年破綻(はたん)することなく続けられるという意味で、国民が年金だけで100歳まで暮らせるということではありません。政府側は制度の実態をうまく隠してきたと思っていたのでしょうが、報告書の指摘によって改めて表面化してしまったのです」
2千万円が不足するという推計は、総務省の家計調査を基にはじき出された。夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯の平均収入は月20万9198円。これに対し支出は月26万3718円なので、毎月の赤字額は約5万4千円となる。