イラスト/阿部結
イラスト/阿部結

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「自然と生きる」。

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 早朝の多摩川を歩いていると、なかなか面白い光景を目にすることができる。

 河川敷にずらりと並んだビニールハウス(ホームレスの人の家)のいくつかから、煙が立ち上っているのである。竈をこしらえて集めてきた薪を燃やし、煮炊きをしている人がいるのだ。

 高き屋に登りて見れば煙立つ 民のかまどはにぎはひにけり  『新古今集』

 大センセイがお住まいの地域には、二子とか丸子というように「子」がつく地名がいくつかあるが、この子は古墳の「こ」だと聞いたことがある。

 実際、丸子橋の東京側の橋詰めには多摩川台古墳群というのがあって、亀甲山古墳と宝莱山古墳というでっかい前方後円墳の間に、小さい円墳が八基も、連なるように並んでいる。

 この古墳群は多摩川の河川敷を見下ろす高台にあり、現在の地名は田園調布。古墳時代から金持ちは高いところから民を見下ろしていたのかと思うとちょっとムカつくけれど、早暁にいくつもの竈から煙が立ち上る風景は古代の日本を想起させてくれて、なかなかいいもんである。

 大センセイ、竈を持っているホームレスの人に頼んで家を見せてもらったことがあるのだが、意外にも楽しそうな暮らしであった。

 ビニールハウスの周りに竹垣が巡らしてあり、竹垣の内側には小さな菜園が作ってあった。いくつかの水槽に多摩川で釣った小魚が泳いでいて、ラジカセから陽気な音楽が流れている。ソーラーパネルで発電しているから、電池はいらないということであった。

 この家の主は○さんという長崎出身の元大工さんで、「いろいろなことがバカバカしくなって、仕事をやめてここで暮らしている」とのことであった。

 たしかに、いろいろとバカバカしいことが多いですな。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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