池袋・母子死亡事故で炎上した「上級国民」指弾の真相

2019/05/11 17:00

たくさんの花が手向けられた東京・池袋の事故現場。(C)朝日新聞社
たくさんの花が手向けられた東京・池袋の事故現場。(C)朝日新聞社

 「上級国民」

 そんなネットスラングがしきりに飛び交った。東京・池袋で母子が乗用車にはねられ死亡した事故で、運転者が逮捕されず任意捜査が進んだことをめぐってだ。

 運転者は元官僚。旧通産省工業技術院元院長という経歴だから逮捕されないのでは、という臆測が語られた。メディアが通常のように「容疑者」と報道せず、肩書や「さん」づけで伝えたことが「炎上」要因となったようだ。

 こうしたバッシングについて、格差社会を専門に研究している橋本健二・早稲田大学教授はこう指摘する。

「社会活動家の声など一時期よりは建設的な意見が増えてきたが、ほとんどは意味がない。政策の変更を求めることもなく、社会的な公平性を実現するのに役に立っていない」

 同じようなバッシングが拡大している背景への分析はこうだ。

「ネットの普及で世の中の人たちが、社会全体から見た自分の立ち位置をより把握できるようになってきた。いわゆる階層リテラシーの向上によって、人と比較した、不公平感がたまり始めた」

 また池袋の事故を起こした男性が87歳だったことから、75歳以上の人の運転免許証自主返納率が4.7%であることも一部で問題視されている。

 そうした視点の危うさを批判するのは、交通心理学を専門とする芳賀繁・立教大学名誉教授だ。

「ミスをした人をたたく、罰則を強化する、高齢者全員免許取り上げる、というのは間違い。誰でもミスは犯す。それを前提として事故にならないシステム設計、仮に事故が起きても被害が最小に済むシステム設計と、段階ごとに考える必要がある」

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