「この装置が出るまでは、患者さんには日々の透析の状況をノートに記入して外来日に提出してもらっていました。透析をサボって記入だけしてくる患者さんがいても、こちらにはなかなかわかりませんでした。かぐやではこの点がすべてチェックできるので、主治医としては安心です。また、日々の除水量も画面に反映されるので、患者さんの外来日にはこの記録を元に、水がたまりすぎてきたら、透析液を変えたり、量を増やしたりします」

 処方の変更も遠隔操作でおこなう。

「遠方の患者さんで来院が難しい場合でも、遠隔診療により適切な治療を継続できます。北海道の道北では腹膜透析の病院が少なく、患者さんの頻回な通院が難しいため、このシステムが役立つと聞いています」(阿部医師)

 カテーテルの注液や排液がうまくおこなわれない場合、アラームが鳴り、そのデータは同時に病院にも送信されるようになっている。

 なお、透析時間は長いほうがからだに負担がかからない。かぐやでは透析時間も医師があらかじめ設定するが、最大四つのパターンを入れることができる。

 村上さんの場合、6時間と8時間の二つが設定されている。

「村上さんの場合、睡眠時間がとれない平日は6時間、土日で長めの睡眠がとれそうなときは8時間で実施するようにアドバイスしています」(同)

 村上さんもこう話す。

「以前の装置では時間の設定変更の必要が生じた場合、再度、設定し直さなければなりませんでした。かぐやはその必要がなく、ボタンでいずれかを選ぶだけ。年代を問わず、誰にでも使いやすいと思います」

 阿部医師の外来では現在、8人の患者がかぐやを使用中。なかには80代の患者もいるが、操作の困難を訴える人はいない。かぐやの導入により、今後は在宅医療が必要な高齢患者などにもAPDが利用しやすくなると、期待されている。

 実はかぐやの遠隔機能では透析治療の主治医以外に、訪問診療の医師や訪問看護師などとサーバーでつながることができる。

「かぐやには患者さんが血圧や体重を入力する画面があります。在宅医療の医師がこの数値をチェックすることで、体調の情報が収集できます。また、在宅医療の医師や訪問看護師が除水量をチェックし、『いつもより少ない』となれば、腎臓の主治医に連絡が行くでしょう。患者さんのデータはこちらでもチェックしていますが、より強固な形でサポートできるので、患者さんにとっては、強い安心感につながると思います」(同)

(ライター・狩生聖子)

週刊朝日  2019年5月17日号