とはいえ、執筆は計画通りには進まなかった。75歳の女優正子と20代のマネージャー杏奈が世界中で活躍する話を考えていたものの、1歳の息子の育児で身動きが取れず、取材もままならない。毎日目にするのは保育園の送り迎えで通る商店街、スーパーマーケット、区役所という半径500メートルの景色。子どもといると八百屋さんで干し芋をもらったり、年配の人と話したりする機会が増えた。

「この状況でしかできないことがあるのではないか、私が普段見ている景色の中でスケールの大きなことができるのではないかと、書きながら気がつきました。家にいて、どうやって大望を実現するか、今ある資源でどう野心を満たすかに話がシフトしていきました」

 正子は近所のゴミ屋敷の住人、彼氏のいる一人息子など、さまざまな事情を抱える人々と自宅をお化け屋敷にする計画を立てる。

「週刊朝日」に連載中は義母と母から感想を聞き、単行本ではよりリアルな人物像が描けたという。

 最終的に正子はハリウッドを目指す。いくつになっても夢をあきらめられず暴走する正子がまぶしい。(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2019年4月26日号