柚木麻子(ゆずき・あさこ)/1981年、東京都生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞、『ナイルパーチの女子会』で15年に山本周五郎賞、16年に高校生直木賞を受賞。『ランチのアッコちゃん』など著書多数。 (撮影/写真部・大野洋介)
柚木麻子(ゆずき・あさこ)/1981年、東京都生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞、『ナイルパーチの女子会』で15年に山本周五郎賞、16年に高校生直木賞を受賞。『ランチのアッコちゃん』など著書多数。 (撮影/写真部・大野洋介)

 いつも穏やかで笑みを絶やさず、何でもやさしく受け止めてくれる。それが理想のおばあちゃんという思い込みが木っ端みじんに砕け散る痛快小説が、柚木麻子の『マジカルグランマ』(朝日新聞出版、1500円※税抜)だ。

「そろそろ新しい高齢者像が出てきてもいいんじゃないかと思ったんです。主人公は出たがりで、業突く張りで、夫を少しも好きではない女性なんですけど、それって実は普通だなと」

 古いお屋敷に住む元女優の正子は、生活費を稼ぐためにシニア女優として再デビューする。75歳を前に大手携帯電話会社のCMに起用され、かわいいおばあちゃん役で一躍脚光を浴びるが、4年も口をきいていない夫の死について本音を漏らしたことから一転してバッシングの対象に。所属事務所を解雇され、家に転がりこんできた20代の杏奈と別の道を探り始める。

 柚木さんは常々、日本のドラマや映画に出てくる高齢の女性は物分かりがよく、穏やかでやさしい人が多いと感じていた。

「女の人は尽くすのが善という考え方があるんだと思います。そういうステレオタイプを壊したい。私もステレオタイプを使ってしまうことがあるので勉強したいし、壊すために何をすればいいのか考えました」

 ヒントになったのが、今年のアカデミー賞でも話題になったマジカルニグロ問題だ。たとえば、映画「風と共に去りぬ」にはスカーレットに献身的に尽くす黒人メイドのマミーが登場する。演じたハティ・マクダニエルは黒人で初めてオスカーを獲得した。

 穏やかで賢く、困っている白人を魔法のように救ってくれる黒人はマジカルニグロと呼ばれ、白人社会で評価されてきた。そこから柚木さんは従来の理想のおばあちゃんを指す「マジカルグランマ」という言葉を作り、その逆を行く正子を描いた。

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