僕はもともと引っ込み思案で恥ずかしがり屋で、人前でなにかをすることが苦手だったんです。でも舞台では普段できないことをお芝居という力を借りてできるんだなあ、おもしろそうだなあと思った。

 高校に入ったときには「将来は舞台の俳優になろう」と決心してた。帯広にはプロの劇団がないから、これは東京に行くしかないな、と。

――しかし、俳優養成所の試験には落ち続けた。いっときは新劇のある劇団に所属し、テレビドラマにエキストラとして呼ばれるようになる。それでも、なかなか芽が出ず、ようやくチャンスをつかんだのは25歳のとき。TBSドラマ「パンとあこがれ」の次男坊に抜擢されたのだ。そこで生きたのは、下積み時代に覚えた「人形劇」での経験だったという。

 試験に落ちてもあきらめきれず、人形劇をやりながら、劇団の試験を受け続けました。父の知り合いが東京で人形劇や児童劇の劇団を立ち上げていたんです。そこの稽古場に居候させてもらっていました。

 テレビの人形劇番組もやりました。人形劇ではカメラが人形をどっちから撮っているか、いま自分の人形が映っているかを書いた「カット割り」の台本を事前に頭に入れて、舞台の下から人形を動かさないといけない。当然ちょっとでも頭を出すと「なにやってるんだ!」と怒られる。

 サルやカニの着ぐるみを着て舞台に出たりもしましたよ。子どもたちの前で演じるのは楽しかったけれど、やりながら「役者をやりたくて東京に出てきたのに、顔を出すなってなんだよ!」って、いやになった時期もあったんです。

 でもその経験がドラマで生きたのです。当時、テレビドラマの現場で、役者に「カット割りの台本」なんて絶対に見せてくれませんでした。だから僕は休憩時間にカメラマンのところに行って、こっそり見たんです。

 すると「このシーンではほかの人がしゃべっているけど、カメラはオレを撮ってるな」とか「次はアップで撮られるから、このタイミングでカメラを見ればいいな」とかがわかる。だから新人なのに全く物怖じせずに芝居ができたんです。

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