東京都立小児総合医療センターからだの専門診療部感染症科医長。2001年、昭和大学医学部卒。カンボジアでボランティア医師を行い、その後カナダ・トロントの小児病院で本格的に感染症について学ぶ。帰国後、東京都立小児総合医療センターに小児の感染症科を設立(撮影/筆者)
東京都立小児総合医療センターからだの専門診療部感染症科医長。2001年、昭和大学医学部卒。カンボジアでボランティア医師を行い、その後カナダ・トロントの小児病院で本格的に感染症について学ぶ。帰国後、東京都立小児総合医療センターに小児の感染症科を設立(撮影/筆者)
※写真はイメージです(写真/getty images)
※写真はイメージです(写真/getty images)

 風邪ではない気がするけれど、やたらと咳が止まらない……。そんな症状に悩まされたことはありませんか? もしかすると呼吸器の感染症である百日咳(ひゃくにちぜき)かもしれません。小児の感染症として知られている百日咳ですが、いま大人の間で流行がみられます。あまり取り上げられることのない感染症のひとつですが、百日咳が流行するとどんな危険性があるのでしょうか。東京都立小児総合医療センターで感染症科医長を務める堀越裕歩医師にお話を伺いました。

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 実は今、大人の百日咳の流行が世界的に問題となっています。日本でも2007年以降、小児科の患者を対象にした報告制度で、百日咳の大人の割合は30~60%を推移しています。2007年以前は0歳児の割合が40~70%を占めていました。

 この報告制度では、内科などを受診している患者が含まれておらず、実際の成人患者はもっと多いのかもしれません。現在は、成人も小児も全て報告することになっているので、より正確な流行状況が今後、明らかになっていくと考えられています。また大人が百日咳にかかっても、軽度の症状で済むためそこまで大きな問題だとは捉えられていませんが、大人の百日咳が流行すると、重症化しやすい赤ちゃんが百日咳になるリスクも高まるのです。

 百日咳は、百日咳菌という細菌が呼吸器に感染する感染症です。100日間のように長く咳が続く病気ということから、百日咳という名前になりました。実際は、数週間から数カ月の咳がみられます。具合が悪くなるのは小児が中心の感染症で、特に3カ月未満の赤ちゃんに感染すると重症化や死亡のリスクがあります。大人は感染しても命にかかわるまでの症状にはなりません。場合によっては、長引く風邪かな、くらいに思われて終わってしまいます。

 どうして大人の百日咳が増加しているのでしょうか。現在考えられる理由は、主に三つあります。百日咳の感染力が非常に強いことと、百日咳の診断が難しいこと、百日咳のワクチンの効果が長く続かないことです。

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百日咳菌の主な感染経路は?