四輪不振の理由は大きく二つある。まずは過剰設備。自動車工場は、高価な設備と多くの人員を抱えているため、稼働率が落ち始めると余剰人員に賃金を払い続けて、収益をむしばむ。まさにホンダはこの状況に陥っている。

 八郷社長は「四輪の年間の生産能力は540万台。英国工場の閉鎖などによって21年末までに510万台に落とす」と説明。生産能力を適正化し、稼働率を100%に近づけたい考えだ。

 しかし、ホンダ社内には「もう一つの数字」があるという。中堅幹部が明かす。

「生産能力は公式には540万台と言っているが、日本から主要部品を輸出してプラモデルのように組み立てるノックダウン生産の能力を入れると、実は800万台近い。このため、実際の稼働率は60%程度。英国だけではなく、マレーシア、パキスタン、インドネシアなどの工場も閉鎖しないと、問題は解決しない」

 実際、ホンダは英国工場閉鎖と同時に、トルコ工場閉鎖も発表している。

 次に、開発コストの高さだ。ホンダの開発は子会社の本田技術研究所が担っている。多くの設計図を「親会社」に売れば、子会社の売り上げが増え、エンジニアはどれだけ多くの設計図を描くかで評価されてきた。このため、車種間で共通で使える部品があっても、わざわざ別々の部品を設計する風潮がある。これが設計の効率化を阻んできた。

「トヨタやマツダは早くから共通化戦略を推進してきたが、ホンダはこれから取り組む状態。先が思いやられる」と技術者はこぼす。

 ホンダ経営陣からも、研究開発体制を見直す動きがやっと出始めた。英国工場閉鎖と同時に発表したのが先進技術研究所とオートモービルセンターの新設だ。

 同センターは、短期的なクルマの開発に注力し、ヒット商品をねらう。先進技術研究所は、今すぐ収益に結びつかなくても中長期的に必要な技術を生む役割を担い、「クルマのスマホ化」など激変しつつある自動車産業の潮流に乗り遅れないための位置づけだ。所長は技術系ではなく、視野の広い事務系幹部をあえて抜擢した。

 時代の流れは速い。ホンダの改革は時間との勝負でもあるが、「メインバンクの三菱UFJ銀行は、ホンダの動きをやきもきしながら見ている。四輪事業が赤字に陥れば、銀行が経営介入する用意がある」(金融筋)。四輪の採算悪化で困るのは系列の下請け部品メーカーで、三菱UFJ銀行はその下請け企業にカネを貸し込んでいるからだ。

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