【組子細工】山川英夫さん(80)/「千分の1ミリ単位で木を削る。これは機械ではできません」
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【江戸すだれ】田中耕太朗さん(55)/「伝統工芸士というより職人。同じものを作り続けるのが仕事」
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 何世代にもわたって磨かれた伝統の技術は「ものづくり大国・ニッポン」の基礎を作った。しかし、長く厳しい修業を経て一人前になる職人の育成システムが時代とマッチしなくなり、“タスキ”を渡すべき次世代が失われつつあるなか、最終走者となるかもしれない名人は何を思うのか──。

【ギャラリー】“絶滅危惧職”の名人と技術を写真で紹介!

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■組子細工/山川英夫(80)

 老舗旅館や高級ホテルなどでは今、障子や欄間、格子戸などの建具に仕込まれる組子細工が壊れた場合に、修理できる職人を探すのに苦労するという。釘を使わずに木を組み美しい文様に仕上げる組子細工は、高度経済成長で生活様式が洋風に変わったことで出番を減らしてきた。

 山川建具の組子細工職人・山川英夫さんは、小学校6年生の時に竹ひごでヤマガラの鳥かごを作り、地域の最優秀賞を受賞した。なんと、竹ひごに穴をあけるためのキリまで鍛冶屋に教えてもらいながら自作したという。もの作りにかかわりたくて、親の反対を押し切って上京し、浅草の職人の元に弟子入りした。

10年の修業を経て建具職人として独立した山川さんの元に、「あの親方の元で育ったんだ、できないわけないだろ」と、組子細工の仕事が舞い込んだのは昭和39年の東京オリンピックの頃だった。できないとは言えず、当時“名人”と呼ばれた職人に教えを請うた。基本的技術は教えてもらったが、美しいオリジナルの組子細工の作り方は門外不出。自力で考え抜き、研究するしかない。だがその苦労が楽しかったと山川さんは述懐する。

「組子は精度との闘い。時に千分の1ミリ単位で木を削る。これは機械ではできません」

 山川さんが作った北斗七星をイメージした細密な組子細工のドアは、木の自然な曲線をそのまま生かしつつ、精密な組子細工で仕上げる高レベルな技術を駆使している。集中して製作しても2~3カ月は優にかかる大作だ。

「完成した時も嬉しいし、そういう作品が売れた時はもっと嬉しい(笑)」

 山川さんは今、組子の魅力を伝えるため、学生とコラボした新しい作品も発表している。

#データ
山川建具
東京都江戸川区中央4-20-14

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