■江戸すだれ/田中耕太朗(55)

 竹をナタで細く割り、一本一本丁寧にカンナをかける。できあがった竹ひごを割る前と同じ順番に並べ直してから一本ずつ編み込むのは、見栄えが美しいだけでなく、ゆがみを最小限にするためでもある。きわめて単調な作業が、寸分の狂いもなく進められ、やがて江戸すだれが完成した。糸がほどけず、長く使えるのが特徴だ。

「伝統工芸というより、“昔から作られてきたすだれ”を作っているだけ」と話す田中さんは、代々続いた田中精簾所を継ぐ前は大学で研究者をしていた。すだれ作りの手伝いは子供のころからしていたが、家業を継ぐ気持ちはなかったという。ただし、研究者時代も夏休み中は、すだれ作りの書き入れ時なので、自然な気持ちで手伝っていた。そんな平井さんの気持ちが変わったのが、平成元年のことだった。

「この仕事を手伝って給料をもらうのではなく、仕入れから経理まで全部自分でできるなら、やってみたいと思った。研究者の仕事も自分で決められないことがたくさんあって、自由にやってみたいという気持ちが高まっていたんです」

 そこから先はとことん実践の日々だったという。「小さいころから手伝っていて、“できる”と思っていたのに、満足できない。英語はできると思っていたのに、いざとなったら話せないみたいな感覚。とにかく必死にやりました」

 現在は東京都の「伝統工芸士」として認められているが、基本の反復の重要性は身に染みて知っている。

「文字や絵を切り抜く『型抜きすだれ』など、きちんと手間をかける仕事の依頼は気合が入る。大変な仕事をやりとげるためにも、いつも作るすだれを正確に作っていくための、毎日の繰り返し作業が大切なんです」

 職人が滅びない理由が垣間見えた。

#データ
田中精簾所
東京都台東区千束1-18-6

(文/本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2019年3月1日号