ピンク色に染まった富士山。フジヤマにもさまざまな顔がある=神奈川県茅ケ崎市 (※写真はイメージです)
ピンク色に染まった富士山。フジヤマにもさまざまな顔がある=神奈川県茅ケ崎市 (※写真はイメージです)

 作家・片岡義男氏が選んだ“今週の一冊”は『外国人が見た日本 「誤解」と「再発見」の観光150年史』(内田宗治、中公新書 880円※税抜)。

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 本書の帯に次のような文言がある。「外国人が見たいジャパン 日本人が見せたいニッポン」。本書の主題はここにあるようだ。日本人が外国からの観光客たちに見せたがったものと、外国からの観光客たちが見たいと願ったもののあいだに、小さくない落差が常に存在した。

 いまで言うところの観光立国が日本で始まったのは、1930年、昭和5年のことだった。当時の日本に存在した鉄道省の外局として、国際観光局が創設された。国による機関として初めてのものであり、外国からの観光客を誘致する事業が、国策となった。

 2017年に観光庁がおこなった、「訪日外国人消費動向調査」によると、彼らが日本滞在中におこなったことの上位五つは、日本食を食べること、ショッピング、繁華街の街歩き、自然・景勝地観光、日本の酒を飲むことだった。

 2013年あたりから外国の人が増えはじめたという、京都の伏見稲荷大社は、いまの人出から判断するなら、繁華街の街歩き、になるだろうか。1万もの赤い鳥居がつらなった景色を写真で見た人は多いだろう。ここは外国からの観光客が発見した名所のひとつだ。

 新宿のゴールデン街をほぼ夜ごと訪れる編集者から、外国の人たちが多いですよ、という話を聞いて、すでに数年になる。日本の酒を飲むこと、という項目に該当するだろう。渋谷のスクランブル交差点はいまでは多くの外国人に知られている。東京でもっとも知られているのは、こことゴールデン街ではないか。

 フジヤマ、ゲイシャ、サクラ、スキヤキ、ハラキリなどは、日本人は、日本のステレオタイプなとらえかただ、と言っている。しかし、富士山をいろんなふうに見たい、しかも一日で、という外国からの観光客の要望に見事に応える案内に、僕が接して心から感心したことは、まだ一度もない。昨年の秋の初め、とある快晴の日、東海道新幹線に乗って西に向かっていたら、いま右の窓から富士山が見えます、というアナウンスがあった。

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