「蜷川さんの現場は、舞台に関わった誰もが、美しいものに対して純粋で誠実。毎回、涙が出てしまいそうになるほど、人間の肉体や精神と全力で格闘できる、幸せな現場でした」

 ドラマや映画などで存在感を発揮する丸山さんが、ものづくりの幸福を最も享受できるのが舞台だ。2年ぶりの舞台は、「唐版 風の又三郎」。唐十郎さん率いる劇団状況劇場の紅テントでの初演から45年の時を経て、神話的恋愛劇が現代に蘇る。

「台本を読んでいるだけでは、意味が掴めないところも多かったのですが、稽古が始まって、セリフが肉声という音に転換されることで、突然視界がクリアになった。なんともいえない美しさと、ものすごいエネルギーが渦巻いている作品です。現代は、何もかもがデジタル化され、あらゆる隙間、余白、行間が失われているけれど、人間の想像力でしか生み出せないぶっ飛んだ世界がここにはある。僕は今43歳で子供もいるんですが、子育てをしているとつい未来を憂えてしまう。でもこの舞台には、僕なんかが及びもつかない世界が描かれていて、自然とこんなメッセージが伝わってくるんです。“人間よ自由であれ”と」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2019年2月1日号