引退会見の最後に頭を下げる貴ノ岩(写真右) (c)朝日新聞社
引退会見の最後に頭を下げる貴ノ岩(写真右) (c)朝日新聞社

 去年10月の巡業中の暴行の引責で横綱・日馬富士が引退し、約1年後、あろうことか、そのときの被害者だった貴ノ岩が暴行の加害者となって引退した大相撲。悪い冗談を見ているようで、最も痛みを知るはずの者が、なぜ? と思うと同時に、だからこそ許されることではなく引退は当然の帰結、だと思う。

 ただ、どこか釈然としない部分もあるのだ。

「モノを手にして頭をたたいた日馬富士と、自分の手で額をたたいた貴ノ岩と、被害者のけがの程度が全然違いますからね。それが結果として共に“引退”という結末になり、前例となる訳で、それでいいの? と思います。暴力を肯定する訳ではありませんが、大相撲は相手の顔を引っぱたく攻撃を認めている競技で、それを職業にしている力士に対して厳しすぎないか、というか、土俵上での“張り手”も禁止にしないと現実的にはなくならないのでは、と思うんです」(ベテラン記者A)

「今回の貴ノ岩の暴行に最初に気付いて事情を聴いたという巡業部長の春日野親方は以前、弟子をゴルフの9番アイアンでたたいた人です(笑)。『自覚がない』『もってのほか』だと言っていた広報部長の芝田山親方は元弟子に、土俵外で一升瓶や木刀で兄弟子に殴られて失明したからと損害賠償請求された。裁判の結果、暴力が認定されて3200万円の支払いを命じられて控訴し、のちに示談が成立したものの内容は明かされていません。相撲協会の幹部にはそういう人たちが普通にいる訳で、偉そうなことを言えるのか?と思いますよ」(ベテラン記者B)

 そうなのだ。『無理偏に拳骨と書いて兄弟子と読む』という言葉がまだ当たり前だった頃の方々が今の協会幹部。そんな人たちが? と思ってしまうのである。

 私事ながら、彼らとほぼ同世代である筆者は東京の国技館の近所の中学校に通ったため、クラスには地方出身で相撲部屋に弟子入りして部屋から通ってくる同級生が何人もいて、彼らが兄弟子に殴られて顔を腫らしてやってくるのを当たり前の風景だと感じてしまうくらい、何度も目撃した。

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