一方で、彼らが付き人としてついている兄弟子の関取が勝ち越すと小遣いを一杯もらうそうで、急に羽振りが良くなり、下校途中で「何でも食え」と、ごちそうしてくれて、勝つことがカネになるプロという世界を垣間見た気がした。だから彼らは殴られても我慢しているのか、と妙に合点がいったものだ。その中学の先輩には全盛期の横綱だった故・北の湖さんがいて、彼の中学時代の蛮行が英雄伝説になっていたのも懐かしい。

 義務教育の空間で大相撲という異文化と遭遇し、彼らが生活する相撲部屋は私たちの暮らす一般社会とは全く別の物差しがある世界なのだと認識した私には、彼らが急に変われるとは思えないのである。

 しかし若い相撲担当記者には「そういうことを言っているお歴々は多いようですが、侮っていますよ。もう、変わらないといけない、ってことなんです。春日野さんや芝田山さんの過去のことを言い出したらキリがないでしょ。そういう人は他にもいるんだし(笑)。とにかく、暴力は一切ダメ、ってことなんです」と言われてしまった。

 そして「今回の貴ノ岩は、本人が辞めると言わなかったら1場所休場という処分だったろう、という声もありましたが、そんな軽いものでは済まなかったはず」という。日本相撲協会は日馬富士の暴行事件で立ち上げた第三者委員会の提言を受けて10月25日、八角理事長が暴力決別宣言をしたが、その前後で全然、空気が変わったと言われている。

「たとえビンタ一発でもNG、ってことです。そんな雰囲気の中で最初に明らかになった暴力が今回の貴ノ岩の件。しかも貴ノ岩は他の部屋のお相撲さんにも暴力を振るっていたという話があったので、19日の理事会を経て解雇、それも執行猶予なし、という処分を出さざるを得なかったと思います。だから協会としては、貴ノ岩が自分から『辞める』と言って欲しかったでしょうし、そうしなかったらクビで、退職金も出ないよ、と本人に伝えたんじゃないですか」(同前)

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暴力決別宣言のもう一つの理由は?