人混みをかき分けて北上することしばし。奇跡的に、中央演舞場に踊り込む瞬間の苔作に遭遇することができた。鳴り物が加速していき、女踊りが乱舞し、男踊りが跳ねまわり、すべてが頂点に達した瞬間、大センセイも妻太郎も何かがぶっ飛んじゃって、思わず、

「コケサク、サイコー!」

 と絶叫していた。

 後はもう、お祭り騒ぎの巷に乱入である。まずは露店のネパール料理屋のぬるいビールで乾杯し、焼き鳥モドキを食う。

「これ何の肉?」

「ネパールの肉。ウマいネ。ネパールの肉、サイコー!」

 親の財布の紐が緩んだのをいいことに、昭和君はここぞとばかり好物の唐揚げを食べまくり、宝引きをやりまくり、水色のかき氷でTシャツを汚しまくる。

 妻太郎は妻太郎で、イケメンのお兄さんが注いでくれた白ワインを立ったままグビグビと飲み干して、

「白の次は何にすっかな」

 と目が据わっている。

 シャツの胸をはだけ、高円寺の長い商店街を3人で流しながら、ビール、チューハイ、ハイボール、唐揚げ、焼き鳥、日本酒……。

 夜が更けるにつれて、露店のお兄さんたちもわけがわからなくなっていく。

「フランクフルトいかがっすかー。1本 200円、2本でも200円、3本でも200えーん」

 やがて瞳の中で街灯がユラユラ揺れ始め、頭の中では苔作の大太鼓が鼓動のごとく響き出し、狂気と正気の境界をさまよううちに、大センセイ、自分にとって大事なものが何なのか、ハッキリと見えた気がした。

 祭りの夜は、とことん飲むのがいい。

週刊朝日  2018年12月14日号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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