2作目『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』はコンセプチュアルな作品で、実験的な要素が目立つ。エリック・クラプトンもカヴァーした傑作バラード「リトル・ウィング」が収録されている。

 その2作に続くのが、歴史的名盤として語られる『エレクトリック・レディランド』だ。創作意欲に燃えるジミはツアーの合間を縫って、レコーディング・スタジオで実験的な試みを続け、セッションを繰り返した。その壮絶な仕事ぶりに、マネジャーのチャスはジミのもとを離れ、ジミ自身で制作を手がけることになる。

 音楽的な幅を広げるべく、積極的にエクスペリエンス以外のメンバーとのセッションをしたことや、楽曲の解釈の違いなどから、ノエルとの間に亀裂が深まり、ジミがベースを手がけることも多かった。実際、ジミの自伝的な要素の濃い曲が多かった。

 今回の『50周年記念盤』には、本編の『エレクトリック・レディランド』に加え、デモ集『アット・ラスト…ザ・ビギニング:ザ・メイキング・オブ・エレクトリック・レディランド:ジ・アーリー・テイクス』、本作発表1カ月前の公演を収録した『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』がつく。さらに、制作時のドキュメンタリー映像の拡張版や本編の3種のハイレゾ音源を収録したブルーレイ・ディスクも。読み応えのあるブックレット(48ページ)には、ジミ直筆の歌詞もあり、興奮と感動を覚える。

 アルバム・カヴァーには、ジミが発表当時に希望した写真が用いられている。ニューヨークにある“不思議の国のアリス像”で、ジミが子どもたちと一緒に写っている。撮影者は、リンダ・イーストマン(後のポール・マッカートニー夫人)。ジミはこの写真に手紙を添えてレコード会社に送り、ジャケットに使うよう依頼していた。だが、その希望は黙殺され、英国盤には女性のヌード集団の写真が使用された。ブックレットにはそうした手紙なども掲載されている。

 今回、本編とともに注目したいのは15曲、20テイクを収録したデモ集だ。既発表の曲もあるが、すべて別テイク。そのうち、10曲、12テイクはニューヨークのホテルの一室で収録された。近隣の迷惑にならないように小音量でギターを弾き、小声で歌っている。かかってくる電話にも出ず、演奏し続ける曲もある。

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ジミヘンにとって重要な音楽基盤のひとつだったのが…