さらに、怒りは大脳の高等感情が統制を失った状態です。大脳の秩序が乱れて、エントロピーが増大してしまっているわけです。生命の正常な働きはエントロピーを減少させようとします。怒りは大脳の認知機能が正常に働かない状態を作り出していると言えるのです。

 やはり認知症予防には怒る機会を少なくした方がいいのです。

 といっても、いったん怒りの感情が生まれてしまったものを、むやみに抑え付けようとするのも、体にいいとは思えません。自然な感情に身をまかせるということも、また必要なことなのです。

 そもそも大切なのは、怒りの感情を生み出さないことです。それは「ほとけ」になることでしょうか。私は、ほとけになるほど、悟ってはいません。ただ、ひとつ言えるのは、以前にも書いたように、生きとし生けるものはすべてかなしみを抱いて生きていると考えています。周りにいる人たちみんなが、かなしみを抱えていると思えば、怒りの感情は消えていきます。

 さらには「ほっとけ」ということ。これだけは譲れないということを年齢とともに、一枚一枚剥いで捨てていくことも大事だと思います。

週刊朝日  2018年11月30日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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